主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
胎児性アルコールスペクトラム障害(FASD)は、妊婦の飲酒により児に発達障害が起きる疾患群である。世界中の罹患率は1万人中約15人であり、レアな疾患ではない。日本では疫学調査の不足により例数ははっきりしない。症状が軽いFASDは診断が付かないケースも少なくなく、FASDとは気付かれないままに精神発達遅滞や注意欠陥多動性障害(ADHD)、成人後のアルコール依存症の原因となると考えられており、社会的に重要な疾患である。しかし、FASDの発症機構には未だ不明な点が多い。
これまでの研究により、FASDの発症にミクログリアとアストロサイトが深く関わっていることが明らかになってきた。しかし、両者の関係性については報告がほとんどない。我々は、出生後のエタノール投与によるマウスFASDモデルを用い、ミクログリアとアストロサイトの活性を検討した。その結果、エタノールの投与がミクログリアの活性抑制とアストロサイトの反応性増強を誘導することがわかった。エタノールの代わりにミノサイクリンを投与することで人為的にミクログリアの活性を抑制すると、同様にアストロサイトの反応性増強が観察されたことから、発生期脳においてミクログリアはアストロサイトの反応性を抑制する働きを担っていると考えられた。また、FASDの病態を制御するサイトカインのスクリーニングを行った結果、C-Cケモカインリガンド26(CCL26)の発現がエタノール投与後の大脳皮質において増加することがわかった。CCL26の受容体であるCCR3のアンタゴニストを投与すると、エタノールによるアストロサイトの反応性増強がさらに顕著になった。したがって、CCL26-CCR3シグナルは、FASDの病態におけるエタノールによる脳障害の緩和に働いていると考えられた。