日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 814
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発表要旨
創業者の地理的背景と創業時イノベーションの関係
*福田 崚
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抄録
1. 背景と目的

企業の立地の促進には特化の経済・都市化の経済により他地域に対して優位となる集積の存在が重要であると考えられてきた。しかしながら、新規に創設された企業の経過を検証すると、彼らは必ずしも都市全体の集積の利益を直截に享受しているわけではなく、当該地域での居住経験やスピンオフの際の母企業など特定の社会関係の中で、技術や知識のスピルオーバーに浴していることが明らかになっている。また、地方都市人口規模・密度が小さく、集積の点では不利な状況にある。これに対する解決策を提示するという点でも、集積の利益にとどまらない要素への着目が有用であると考えられる。本研究では、この人的資本・社会関係資本に着目し、UターンやIターンなど創業者の地理的背景との関係において地方における創業への影響を検証する。

2. データ、分析視点、分析手法

日本経営史研究所(1986、1996)・専門図書館協議会関東地区協議会(2008)に採録されているうち、国会図書館に所蔵されているうち、必要となる情報が掲載されていた327の社史を対象に分析する。

これらを、創業時のイノベーションに着目して、イノベーションの新規性の度合いを社会関係や人的資本との関係において分析する。本研究の立場は企業にとって新しいものをすべてイノベーションと見做しており、創業時であればすべての企業がイノベーションを起こしていると言え、比較が容易である。また、創業時であれば創業者の背景の影響をより明確に判断できると考えられる。

具体的な分析手法としては、①対象となる企業を一定の基準で分類した記述統計②上をもとにした回帰分析③いくつかのトピックについてのテキストによる定性的議論の三つの分析を展開する。

3. 記述統計・回帰分析

創業者の地理的背景は図1の通り。創業地域での地理的経験を持つ場合には地域内での社会関係にアドバンテージが、地域外、特に大都市圏での経験を持つ場合には人的資本の観点からの蓄積があろうと期待される。
創業時のイノベーションが国内初となるような高度な新規性を有していた場合にそれ(ダミー)を説明する回帰分析を行った結果を見ると(表省略)、高生産性地域での経験と地域内での社会関係が組み合わさると、プラスに働くことが分かる。
4. 定性的議論

ウェットな記述を見ても、優れた技術を持つ新規創業企業が、地域内での社会関係を活かし、困難が多いと考えられる創業期の顧客獲得を成し遂げていた。また、偶然によるコミュニケーションは外部から模倣し地域レベルでは新規の事業を展開する際に効果がある事例が見られた。

5. 結論

定量的な議論からも定性的な議論からも、人的資本と社会関係資本が組み合わさることが高度なイノベーションに貢献することが示された。出身地であるために地域でのネットワークを保持しつつ、大都市圏で高い技術を身に着けたUターン者は新奇性の高いイノベーションを展開しつつ企業をするのに有利である。

参考文献

日本経営史研究所1986.『会社史総合目録』日本経営史研究所.

日本経営史研究所1996.『会社史総合目録 増補・改訂版』日本経営史研究所.

専門図書館協議会関東地区協議会2008.『会社史・経済団体史総合目録 : 累積版 追録43号-追録59号』専門図書館協議会関東地区協議会.
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© 2019 公益社団法人 日本地理学会
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