抄録
1.研究背景と目的
移民研究における地理学的研究の特色と課題は、移住先における移民の生活様式の特色とその要因を明らかにすることである(山下2003)。1990年以降、出稼ぎ労働者として増加した日系ブラジル人(以下、第1世代)は同胞コミュニティを形成しホスト社会とは表面的な接触に限定されていた(片岡 2014等)。一方、移民子弟はホスト社会に適応していき、同化する傾向である(多文化共生キーワード事典編集委員会編 2004)が、ホスト社会との関係性により実態は異なるため、地域社会が移民に与えた影響の考察と、事例の積み重ねが求められている(Forest 2016)。
本研究では、群馬県大泉町の在日日系ブラジル人2世(以下、第2世代)を事例に、第1世代およびホスト社会の取り組みを踏まえ、多面的に実態を明らかにしたうえで、日本社会への適応要因を考察した。
2.結果と考察
1)第2世代の実態および適応要因
調査対象者は、大泉町で学齢期を1年以上過ごした17歳~36歳の51人である。既往研究をもとに①職業②言語能力③居住地④帰化志向⑤帰属意識⑥友人関係の6指標を設定し、大泉町に居住する第1世代と、大泉町出身の日本人(18~35歳)の回答結果と比較を行った。
その結果、①職業②言語能力③居住地⑥友人関係は日本人に近く、早くから日本社会への適応が進んでいることが明らかとなった。要因としては、公立学校出身者割合が高いことと、ブラジル人学校出身者も日本での居住歴が長く、日本語教育を受けていることが考えられた。一方、④帰化志向と⑤帰属意識は第1世代に近く、心理的側面では葛藤がみられ、適応はゆるやかであった。要因として、第1世代(両親)や大泉町のブラジル人社会を介したブラジル文化との接触が考えられた。また、通学学校種を基準に3集団に分類した結果、集団ごとに差異がみられた。
2)地域社会の変容過程
第1世代の流入当初は、ホスト社会の学校教育への順応を目的とした教育施策に限定されていたが、生活基盤の安定に伴い第1世代による帰国を念頭に置いた家庭に向けた教育活動が行われていた。のちに、ホスト社会は定住を念頭に置いた教育施策を強化するとともに、両者は連携事業を行うなどの変容をみせていた。このような積極的な第2世代への取り組みに加えて、ホスト社会と第1世代間での少ない軋轢が、第2世代が日本社会へ適応していくことを促進させていた。
文献
・片岡博美 2014.ブラジル人は「顔の見えない」存在なのか? : 2000年以降における滞日ブラジル人の生活活動の分析
から.地理 学評論87A:367-385.
・多文化共生キーワード事典編集委員会編 2004.『多文化共生キーワード事典』明石書店.
・山下清海 2003.移民研究における地理学的研究の特色と課題―椿 真智子・石川友紀報告に寄せて― 歴史地理学45
(1);99-101.
・Forest, J. and Kusek, W. 2016. Human Capital and the Structural Integration of Polish Immigrants in
Australia in the First, Second and Third Generations. Australian Geographer 47:233-248.