日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S802
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発表要旨
高知県梼原町における地域包括ケアシステム構築にみる集権型ローカル・ガバナンス
*中村 努
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抄録
Ⅰ.研究対象地域の概要
 2015年現在,梼原町の人口は3,608,総世帯数は1,560と5年前と比べてともに約1割減少した。2014年現在の65歳以上人口比率は43.2%で年々上昇傾向にある。梼原町では,町内全域が一つの日常生活圏域として設定されている。2006年度には地域包括支援センターが町の直営により設置され,町内全域を対象に,介護予防ケアマネジメント業務,総合相談支援業務および権利擁護業務,包括的・継続的マネジメント支援業務を行っている。一方,多職種が情報共有を図る機会として,月1回の地域ケア会議が町内全域のスケールで実施され,類型(1)-Aの事例に該当する。

Ⅱ.梼原町における地域包括ケアシステムの概要
 梼原町の地域自治における特徴は,住民から選挙で選出された区長を軸とする住民自治システムが行政の補完的役割を果たしていることである。行政の施策に地域住民のニーズが反映されるよう,ボトムアップ方式のガバナンスが維持されている。しかし近年,部落長や区長などそれぞれの自治組織のリーダーの担い手の不足から,彼らにかかる負担が増えている。梼原町は安定した医師確保に加えて,疾病予防や健康づくりに向けて,行政が住民と連携して地域保健,地域福祉の推進を進めてきた。以上のような地域自治の体制が,地域包括ケアシステムの基盤となっている。

 ハード面においては,1996年に国民健康保険梼原病院と保健福祉支援センター,高齢者生活支援ハウスや社会福祉協議会の通所介護施設を集約した施設が東区に設置された。これにより,職種間の円滑な情報共有が図られるとともに,物理的,時間的な移動を伴うことなく,保健,医療,福祉,介護の各ニーズが充足されるうえに,各種行政手続きや相談がワンストップでできるようになった。また,2018年4月,見守りを要する人や軽度者が,住み慣れた地域で安心して暮らし続けることを目的として,複合福祉施設が東区に新たに開設され,社会福祉協議会が指定管理者となって,施設全体の運営管理を行っている。

 ソフト面では,多職種が情報共有を図る機会として,月1回の地域ケア会議や週1回のケアプラン会が実施されてきた。前者では,福祉サービスのあり方や地域の課題等を協議するため,梼原病院医師,看護師,理学療法士,地域包括支援センター,居宅介護支援事業所,民生委員が参加している。とりわけ,養護老人ホームの入所判定や,生活支援ハウスの入居・在宅介護家庭支援金支給に係る申請などが検討されるが,地域課題を検討するには至っていない。後者では,保健・医療・介護・福祉関係者による定例会として,2008年度から週1回のケアプラン会が定期的に開催されている 。梼原病院の医師や看護師,理学療法士,管理栄養士に加えて,居宅介護支援事業所,地域包括支援センター,健康増進係保健師によって,在宅医療・介護連携事業が推進されてきた。主に在宅から梼原病院に入院してきた患者の方針や,退院後の患者の支援態勢が話し合われるとともに,在宅支援の必要なケースの共有が図られる。

Ⅲ.梼原町の地域包括ケアシステムにおける課題
 2004年に解散した社会福祉協議会は,老老介護に対する家族や地域によるソーシャル・サポートの不足を補うため,2014年度に再法人化された。しかし,町外出身者にとって,プライバシーにかかわる生活支援ニーズを把握するために必要な住民との信頼関係を構築するのに苦慮するケースがある。2018年度には,包括的支援事業の一環として,町全体を管轄する協議体が設置されたものの,各区の地域課題を具体的に把握して,課題解決につなげるには至っていない。また,高度医療が可能な医療施設がないため,フルセットによる地域包括ケアシステムの構築が困難である。その場合には周辺自治体との広域連携が必要となる。このため,よりミクロな地域の住民ニーズを取り込む場合には重層的なローカル・ガバナンスの構築も今後の課題になると考えられる。
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