日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P065
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発表要旨
衛星画像を用いたカンボジア・クーレン山における森林伐採と農地転用
*志田 清佳梶山 貴弘藁谷 哲也
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抄録

クーレン山(Phnom Kulen)は,標高300~500mを有するテーブル状の山地である。ここには,9世紀にクメール王朝初期の都が作られたが,王朝崩壊後,熱帯気候の下で密な森林によって覆われることになったと考えられる。クーレン山は,1993年に約37,500haが国立公園に認定された。しかし,認定前から森林伐採が広範に進み,現在その伐採地では農地転用が進んでいるようである。そこで本研究では,村落や遺跡が集中するクーレン山南部を対象に,森林伐採の規模や伐採地の農地転用について分析した。

森林伐採の規模を把握するため,2018年2月(乾季)に取得された複数の衛星画像(PALSER-2)をもとに,目視による伐採地の判読を行い,その分布,規模および密度などをArcGISで可視化した。また,判読した伐採地を植物被覆の程度をもとにA~Cの3タイプに分類した。ここで,Aタイプは植物被覆が70%以上,Bタイプは70~10%,Cタイプは10%以下である。一方,2018年8月(雨季)には22箇所の伐採地でグランドトゥルースを行うとともに,マリャカット(Virak Kat)村,プレトゥメイ(Pre Thmei)村,およびアンロントム(Anlong Thum)村で聞き取り調査を実施し,画像判読結果との照合や検証を行った。

衛星画像の分析から,研究対象としたクーレン山には,楕円形の伐採地が3,000箇所以上(2018年1月8日分析時点で3,075)あることがわかった。伐採地の合計面積は5,092haであり,これは研究対象地域の総面積31,371haの16%にあたる。1区画あたりの伐採地面積は平均で約1.67haであり,1.6~2.4haの伐採地が最多(44%)を占めていた。また,伐採地の点密度分布を算出した結果,とくにクーレン山中央部に位置するポペル村(Popel)周辺に伐採地が集中する傾向がみられた。これら伐採地の植物被覆による分類では, Aタイプは1,754箇所(57%),Bタイプは431箇所(14%),Cタイプは890箇所(29%)であった。

2018年8月のグランドトゥルースでは,伐採地の土地利用が主にカシューナッツ栽培地,イネ栽培地,トウモロコシ栽培地,バナナ栽培地,混合(カシューナッツとバナナ)栽培地,休閑地,新規開墾地などであることを確認した。
2018年2月の画像判読結果と8月の現地調査を比較してみると,Aタイプとした植生はおもにカシューナッツ栽培地であると考えられる。しかし現地調査では,新規に開墾された場所も存在していたことから,2月以降に伐採地内で植物の伐採が行われたと推測される。また,Bタイプには休閑地が含まれるが,伐採地はおもに生育度の低い作目(カシューナッツ,バナナ)やイネなどの栽培地として利用されていると考えられる。一方,Cタイプはおもにイネ栽培地や休閑地であると考えられる。

聞き取り調査によると,クーレン山では複数の畑地の輪作が行われていることがわかっている。このため,2月の乾季と8月の雨季における作目の変化や休閑地の存在は,このような輪作形態を反映したものと推測される。また,伐採跡地の多くで見られるカシューナッツの栽培は,2000年頃から導入が進んだとみられ,換金性の高い作目への農地転用が進んでいることがわかった。

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