抄録
1.高齢者の貧困と社会的孤立
改正社会福祉法(2017年6月2日公布,2018年4月1日施行)では,複合的な課題をもつ生活困窮者等に対する地域における包括的支援体制の強化が明記され,地域共生社会の観点から支援の土台となる地域力の重要性が強調されている.また,地域包括ケアシステムにおいても,高齢者の貧困と社会的孤立に対応するため,いかにして見守り体制を構築し,切れ目のない円滑な支援を行なっていくかが重要な課題の一つとなっている.
以上を踏まえ,本研究では大阪市西成区で実施されている生活保護受給高齢者を対象とした居場所づくり事業における調査の結果から,社会的孤立を防止する居場所づくりの機能を整理する.そして複合的な貧困状態にある高齢生活保護受給者の「関係性の貧困」を解消する支援のプロセスを明らかにし,居場所を拠点とした包括的高齢者支援の可能性について検討する.
2.大阪市西成区での取り組み
大阪市西成区では2013年に「西成区単身高齢生活保護受給者の社会的つながりづくり事業」が創設され,居場所事業の拠点である「ひと花センター」において高齢単身生活保護受給者への孤立防止の支援が実施されている.この事業の対象者の大半は,あいりん地域周辺で生活している単身高齢生活保護受給者である.利用者の多くが生活困窮状態に陥っても家族・親族からの扶養を受けられず,西成で生活保護を受給するに至っており,あらゆるつながりからの断絶が考えられる.また,介護保険や障害福祉などの対象とならないため,社会福祉支援の対象から漏れ落ちやすく,孤立リスクが高い.
ひと花センターでは,高齢単身生活保護受給者の社会的孤立の防止と関係性の創出を目的とし,居場所の提供にとどまらない多様な支援プログラムを実施している.具体的なプログラムは,社会参加,表現・レクリエーション,健康教室のほか,金銭管理,悩み事相談,服薬サポートなどの生活支援である.本研究では,ひと花センターの利用状況と利用者の生活実態および,地域住民を対象とした意識調査の結果から,ひと花センターの居場所としての機能を明らかにし,居場所事業としての包括的支援のあり方について検討する.
3.包括的支援と社会的孤立の防止
調査の結果,ひと花センターのもつ居場所機能は,新たな関係性の創出の場,プログラム参加による間接的介護予防と生活支援の実施,地域とのつながりのコーディネートの三点で特徴づけられることが明らかとなった.
第一に,居場所としての物理的な拠点が設けられていることである.プログラムの参加や相談窓口の利用以外にも,「ここに行けば誰かがいる」場所としてセンターが気軽に立ち寄れる場所となっている。単身高齢者にとってこのような居場所があることは、外出機会や他者と交流を持つ動機づけとなり、閉じこもりを防ぐことにもつながる。
第二に,絵画や音楽,ダンスを行う表現プログラムやレクリエーションへの参加が利用者の心身の健康状態を活性化するために有効である点である.また,健康づくり,共同炊事,悩み相談などのプログラムへの継続的な参加は,利用者の生活や健康維持のスキルを高め,介護予防にもつながる.
第三に,センターが有する人や地域社会とのつながりをコーディネートする機能である.個人では得られにくいボランティアや清掃活動などの地域活動に関する情報をセンターが取りまとめ,参加の仲介を行っている.また,地域活動による社会貢献は,生活保護受給によってスティグマ化された利用者の自尊感情や自己有用感を高めるための動機づけとなり,孤立と閉じこもりの防止に有効である.
このように,利用者の孤立防止を目的とした場合には,地域資源との連携や交流が必要不可欠である.センターの開設以降,居場所に関わる各種NPOや市民グループの間に新たな交流が生まれ,居場所をハブとした新たな地域のネットワークが形成されつつある.居場所づくり事業は社会的孤立を防止するだけでなく,地域の共生を促す新たな拠点となる可能性も期待できる.
しかし,課題も多い.居場所事業が大阪市の補助事業である以上,市の予算配分や地域対策の方向性によっては,居場所事業の継続が困難になる可能性も考えられる.高齢者の孤立を防止するためのコストと孤立を放置することで生じる新たな社会的コストのどちらを選択するのか,支援の公助・共助のバランスと合わせて検討されるべき課題である.