日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P079
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発表要旨
大正・昭和初期における山村地域からの出寄留者の職業と世帯
愛知県東加茂郡賀茂村『寄留届綴』の分析から
*鈴木 允
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抄録

近代日本の人口移動の実態については,これまでほとんど明らかにされてこなかった.報告者は,こうした研究の空隙を埋めるべく,当時運用されていた寄留制度に基づき作成された寄留届の個票を集計したデータベースを作成し,愛知県東加茂郡賀茂村の『寄留届綴』の分析から,大正期における山村地域からの出寄留者の属性や寄留地などの傾向を明らかにする研究に取り組んできた.これまでの成果として,当時の出寄留の実態は①近隣都市の工場へ住み込みで働きに出る女工を中心とした単身寄留と,②大都市への住所寄留者の両方が主流で,②では世帯単位の随伴寄留者も多く見られることが示された.さらに大正~昭和初期にかけて出寄留者数が増加していった過程が明らかにされ,①の数に大きな変動がないのに対し,②が大きく増加していたことも明らかになった.
さらに,地域人口の変化をもたらした社会・経済的背景の検討のため,中川清による職業分類の枠組みを援用して職業分類を行い,出寄留者の職業を分析したところ,主に次の6点が観察された.
(1) 農業の寄留者(近隣の村への寄留が多い)の減少.
(2) 「力役型」・「雑業型」の就業者が少ないこと.
(3) 女工の多さが際立っていること.
(4) 「職人」・「商人」が多いこと.
(5) 官公吏・学生が比較的多いが,これらは県外への寄留は僅少であること.
(6) 「無業」の寄留者もかなり多いこと.
こうした知見を,近代日本の都市化や産業化との関わりにおいて解釈するためには,当時の社会・経済的背景との関係をより詳細に解明していくことが望まれる.本研究はこのような問題意識に基づき,出寄留者の寄留先と職業の関係,職業と世帯との関係などを詳しく明らかにするものである.

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© 2019 公益社団法人 日本地理学会
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