日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P095
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発表要旨
「地理総合」に向けて地理的思考・判断力の育成
-国際地理オリンピック選抜問題の教材化-
*神宮 公平
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抄録

1.はじめに

 2022年度より全国の高等学校で「地理総合」が実施されることになっている。2018年3月告示の高等学校学習指導要領(以下,新指導要領)の「地理総合」に関する内容では,「A地図・地理情報システムで捉える現代社会」「B国際理解と国際協力」「C持続可能な地域づくりと私たち」の3つの大項目から構成される。新指導要領では,これまでの知識・理解したことを前提の上で,それらを活用する資質・能力を育成するコンピテンシーベースの学習が重視されるようになった。例えば,自然地理学的内容で学習したことを活用して,自然災害の被災を避けるためにどのような場所に居住すればよいかや,災害時の避難行動の在り方などを自らで思考・判断し,行動する能力を育成することがコンピテンシーベースの学習と考える。
 発表者は,2011年度から国際地理オリピック日本委員会の実行委員を務めており,鹿児島会場を担当している。鹿児島県には高い進学率を誇る私学の中高一貫校が所在することもあり,毎年地理オリンピック第2次選抜試験まで進む生徒が多い。地理オリンピックの第1次選抜,第2次選抜ともに試験問題は,ふんだんにコンピテンシー能力を活用する設問構成となっており,地理的思考・判断力を問われる。
 そこで本研究では,2016年に実施された第11回日本選手権および第14回国際大会の第2次選抜問題を使用して教材化・授業実践を行い,「地理総合」への有用性について検討した。取り上げた設問はA(4)を使用した。設問内容は,一級河川の上流で時間雨量100mmを超える雨量を記録し,この河川の危険水位を超えた。このような事態が発生したことを想定し避難計画を策定する際,最も優れている避難先を選択して,その理由を述べさせる設問である。新指導要領の「地理総合」では,C(1)自然環境と防災という項目において地理で防災教育を取り扱うように明記されている。この設問は,防災の観点から受験者の意思決定を問う内容となっており,地理的事象を理解し,それを説明するような従来の記述式に加え,意思・判断まで問うことまでできる良問である。発表者は,勤務校にてこれをもとに単元構成を施し,授業実践を行った。講座名は地理Bで,対象生徒は2年文系クラスの40名,選択者の大半が大学進学を希望し,センター試験で地理Bを受験する。

2.授業の概要
 単元は,帝国書院の地理B教科書の「第Ⅱ部現代世界の系統地理的考察」「1章自然環境(開発に伴う災害と防災)」で行った。授業時間は50分,導入で本時の目標と教材を提示して,3~5名のグループで授業を展開した。展開①では,設問中の図からB地点の地形的な面において,ここに留まってはいけない理由を考えさせたうえで,同じ図に示される3つの避難候補地点X・Y・Z地点において有利・不利な面について考察させた。展開②は展開①を踏まえて避難先として最適な地点を答えさせ,意見をまとめたことを発表させた。終末は本時のまとめを行ってから,授業内容に関するアンケート調査を行った。時間の都合上,全グループの発表はできなかったが,3グループの発表を行うことができた。教科書・資料集を活用しながら既習分野(沖積平野など)で得た知識を用いて,正解を導き出していたグループが多く見受けられた。授業後のアンケート調査では,「これまでの習った地形の特徴など知識を生かして対応できるようにしたい」「ハザードマップで事前に避難場所を確認したい」などの感想が見られた。一方で,選抜問題に使用されるだけあって「難しかった」という意見も散見された。

3.まとめ
 国際地理オリンピック代表選抜問題は,新指導要領や世界的な地理学習の流れを反映して作問されている。これらの設問を教材化することは,地理教師が比較的短い時間で地理的思考・判断力を育成する教材が作成できると考える。一方で,この設問から教師の側がオリジナルの地理教材の開発に取り組んでいくための創意工夫を要することを認識した。

【参考文献】
碓井照子編 2018.『「地理総合」ではじまる地理教育』.古今書院.
由井義通 2018.「地理総合」と「地理探究」で育成する資質・能力.地理・地図資料2018年度特別号.帝国書院.2-5
国際地理オリンピック日本委員会実行委員会編 2018.『地理オリンピックへの招待』. 古今書院.

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© 2019 公益社団法人 日本地理学会
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