日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 716
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発表要旨
ラオスにおける闘牛の文化生態学
*横山 智広田 勲パンサイ インサイ
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抄録
中国南部から東南アジア大陸部山地に住むモン(Hmong)の人々は、焼畑陸稲作と家畜飼育を生業とする山地民として知られている.モンが多く住むラオス中部のシェンクワン県では、古くから正月や結婚式などの人が集まるハレの日に仲間うちで数頭の雄牛を集めて闘牛を行ってきた.闘牛は,娯楽として行われる伝統的な文化行事であるが,同時に闘いに勝つような雄牛を所有する者は,社会的にも高いステータスを得られるという側面も持ち合わせている.
 ところが近年,闘牛は特別な機会に限らず,各地で定期的に開催されるようになり,1990年代後半以降は,大規模な闘牛大会が正月に特設スタジアムで開催されるようになっている,そして,闘牛で闘う牛(ゴア・ソン)は,肉牛(ゴア・シン)よりも高く取引されるようになっている.強いゴア・ソンを育てるには,時間的にも経済的にも余裕がなければならないと考えられるが,実際には自給的な焼畑を生業とするような村でも,多くの世帯がゴア・ソンを飼育していた.彼らは,どのように闘牛に関わり,そしてゴア・ソンを飼育しているのであろうか.これまで,モンの人々の闘牛に関する研究は,管見の限り存在しない. そこで本研究では,ラオス中部シェンクワン県における牛の飼育方法と流通システムから,モンの人々の闘牛が近年活況を呈するようになった要因を文化生態学的視点から解明することを目的とする.
 研究の結果,ラオスのモンの人々が伝統文化として古くから行っていた闘牛が,近年活況を呈するようになった理由は,闘牛大会が制度化されたことによって,闘いによって牛がダメージを負った場合でも、その牛を肉牛価格で買い上げる保証制度が整備され,自給的な焼畑を生業とするような世帯でも牛の肥育者が闘牛に参加する障壁が低くなったことが大きく影響していた.牛の肥育は,2006〜07年に県農林局が牧草を栽培するプロジェクトによって導入されたものであり,肥育によって太らせた牛をゴア・ソンとして育てるか,ゴア・シンとして育てるか,飼育者が肥育の段階で選択するのではなく,闘牛の勝敗の結果で決めることができるようになり,負けても損をしない経済環境が構築されたことは,闘牛の参加を更に促す結果となった.すなわち,肉牛の飼育と販売の環境を改善するために導入された技術と制度は,結果的に闘牛文化の存続と発展にも大きく貢献したのである.
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© 2019 公益社団法人 日本地理学会
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