日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 419
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発表要旨
三陸海岸における完新世地殻変動の空間的分布
*丹羽 雄一
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抄録

はじめに
 東北地方太平洋岸に位置する三陸海岸では,2011年に発生した東北地方太平洋沖地震時の沈降(Ozawa et al., 2011),および,地震後の隆起(国土地理院,2017)が記録されている.また,検潮記録に基づくと,当該海岸では2011年以前の数十~百年間にも沈降傾向が認められる(Kato, 1983).一方,三陸海岸では更新世海成段丘と解釈された平坦面の存在から,105年スケールの隆起傾向が示唆されていた(小池・町田,2001).三陸海岸で提案された,対象期間によって向きの異なる地殻変動を説明する既報のモデルは,三陸海岸が単一の地殻変動区から構成されることが前提となる(池田ほか,2012など).
 しかし,隆起傾向の根拠とされる海成段丘で,編年データが得られているのは三陸海岸最北部のみであり(宮内,1988),当該海岸南部では海成段丘と解釈されてきた平坦面の分布は断片的である(小池・町田,2001).そのため,海成段丘の分布に基づいて三陸海岸における地殻変動の空間分布を把握するのは難しい.一方,発表者は三陸海岸に点在する沖積平野において,沖積層の解析と14C年代測定に基づいて103~104年スケールの地殻変動の推定を行ってきた(丹羽ほか,2014など).本発表では,これまで得られた地殻変動の推定結果を述べ,三陸海岸が単一の地殻変動区から構成されるか否かを検討する.

調査手法
 三陸海岸に分布する合計5つの沖積平野を対象とし,各平野1~3本の堆積物コアに対し,堆積相記載および14C年代測定に基づいて堆積環境を推定した.潮間帯堆積物が認められる場合は,その分布高度を地殻変動を含まない相対的海水準(Nakada et al., 1991; Okuno et al., 2014)と比較し,平野ごとに地殻変動傾向を推定した.また,平野内で複数のオールコア試料が得られている場合,断面図に等時間線を引いて,1000年ごとの堆積地形変化も地殻変動推定の参考にした.

地殻変動の推定結果
 陸前高田および気仙沼大川では,完新世初期の潮間帯堆積物が地殻変動を含まない相対的海水準よりも低く分布することから,103~104年スケールの沈降傾向が示唆される(丹羽ほか,2014,2015).津谷では,海進を示す堆積物が相対的海水準上昇の鈍化した8000年前以降も堆積し,完新世後期の堆積速度がデルタフロント堆積物で小さく,デルタプレーン堆積物で大きい(丹羽ほか,2016).これらの特徴は,完新世の沈降傾向に伴う相対的海水準上昇によって説明可能である(丹羽ほか,2016).津軽石では,完新世中期の潮間帯堆積物が海面下に分布し,デルタ通過後に厚い湿地堆積物が認められる(Niwa et al., 2017).この堆積相分布の特徴は,完新世沈降に起因した相対的海水準上昇による堆積空間の上方への付加によって説明される(Niwa et al., 2017).小本では完新世中期のデルタフロント堆積物上部が河川堆積物に侵食され,津軽石平野で認められる103~104年スケールの相対的海水準上昇傾向を示す堆積環境変化は認められないことから,完新世における沈降傾向は認められない,あるいは顕著ではないと推定される(Niwa et al. in press).

考察
 得られた結果から,津軽石以南は103~104年スケールで沈降傾向にある可能性が高い.一方,津軽石よりも北方の小本では103~104年スケールで顕著な沈降が認められないことから,三陸海岸の地殻変動様式が津軽石と小本の間のどこかを境に異なる可能性が考えられる.これら見解からは,従来単一と見なされてきた三陸海岸の地殻変動区を複数にセグメント区分する必要性が示唆される.

文献:池田ほか(2012) 地質学雑誌.Kato (1983) Tectonophysics, 97, 183-200. 小池・町田(2001) 東京大学出版会, 122p.国土地理院(2017)地震予知連絡会会報,96,75-93.Nakada et al. (1991) Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 85, 107 – 122. 丹羽ほか(2014)第四紀研究,53,311 – 312.丹羽ほか(2015) 地学雑誌.124, 554-560.丹羽ほか(2016)地学雑誌,125,395-407.Niwa et al. (2017) Ql, 456, 1-16. Niwa et al. (in press) Ql. Okuno et al. (2014) QSR, 91, 42 – 61. Ozawa et al. (2011) Nature, 475, 373-377.

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