本研究は,日本の19世紀の気象観測データと20世紀以降を中心とした気象庁のデータを連結する際に問題となるデータ間の不均質性について,特に気温の日平均値を均質化する手法を確立することを目的とする.
長崎地方気象台は1951年に移転し,移転前後で約100メートルの標高差(旧観測点131.5m→新観測点26.7m)が生じている.その際,新旧両地点において1年間の並行観測が行われ,気象庁観測原簿として保存されている.そのうち,気温と雲量の時別データをデジタル化して解析に使用した.新地点(1日11回観測)の時刻別気温偏差(日平均気温との差)を変数にとり,1年間(365日)の時系列データに対して主成分分析(11回×365日の行列)を行った.
主成分分析により得られた結果は次のとおりである.(1) 上位2成分(PC.1+PC.2)で,全体の変動の約78%を説明する.(2) PC.1は,夜間(負)と日中(正)で逆符号となり,極大は6:00(−)と14:00-15:00(+)で,日最低気温と日最高気温の出現時刻に相当し,平均的な気温の日変化パターンを示す成分と考えられる.(3) PC.2は,早朝〜午前中で負,夕方〜夜で正となるが,日中(12:00-18:00)は振幅が小さいため,日中の気温変化が小さい日変化パターンを示す成分と考えられる.
雲量とPC.1スコアとの間には,負の有意な相関が認められたことから,晴天時には日中昇温・夜間降温で気温日較差が大きくなるが,曇雨天時には日中に昇温が抑制され夜間も気温低下しにくいことを示していると考えられる.
新観測点と旧観測点の気温差(10:00 新−旧)とPC.1のスコアとの関係から,気温日変化が大きい日(日中高温・早朝低温)ほど新地点の気温(10:00)の気温低下が顕著だが,気温日較差が小さい(曇雨天時)時は新地点の方が約1℃気温が高くなる傾向があることが分かった.