日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 104
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発表要旨
日本周辺の歴史時代の気候変動とその影響
*田上 善夫
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抄録

1 はじめに

 歴史時代の気候変動は、地域的にも地球規模でも環境変化の基盤として重要であり、自然・人為の代替資料などから復元されている。ただし復元結果は時代や地域により相異し、また大気大循環モデルでの再現とも相違することがある。歴史時代の気候理解の不確実により、その文化・社会的変容とのかかわりの分析は困難であり、将来の気候予測や影響評価にも支障をきたしている。不確実であることには代替資料の質・量的制約のほか、代替資料は主に気温・降水量を反映するのに対し、風を反映した資料は限られ、循環を直接示さないことがある。日本周辺の気候に関する史料や限られた観測記録を用いることにより、気候変動を寒暖、乾湿、とくに循環とのかかわりを重視して分析し、歴史時代の気候変動の再検討を試みる。

2 歴史時代の気候復元

 上述のように歴史時代の気候変動は自然や人為の代替資料にもとづく復元とともに、大循環モデルなどからの再現も進められている。復元結果での事実および明瞭な地域性、モデルによる再現による地球規模での変化など、それぞれの整合的・統合的な理解が必要である。中世温暖期や小氷期とよばれるように寒暖の変化が重視されるが、それらは重要である一方、乾湿やさらに循環の変動を含めた理解が必要となる。

 また気候変動の影響は甚大で広域にわたり、複雑かつ長期的でもある。そのため将来の変動と影響の予測には、歴史時代の気候のみならず人間や社会を含めた変化の解明が不可欠である。関連する隣接分野を含んだ複合的問題、歴史的事実の分析などにも、気候変動の確実な解明が求められる。

 これまでにも第2千年紀における夏季・冬季の気候変動には、極端な寒暖の期間がみられた。たとえば15世紀の社会的不安定化の頃に現れた厳寒期間は、地球規模の寒冷化要因と循環系の変動との相互作用がかかわるとみられる。将来はもちろんであるが、歴史時代においてもそれらは相互にかかわり、まず気候の復元が求められる。

3 風を含めた変動の復元

 寒暖や乾湿に加えて大気の動きを含めた気候変動の復元には、強風記録を含む気候史料が効果的となる。とくに強風災害史料に総観的な解析の手法を適用することにより、日本周辺での循環系の変動が示される。

 さらに風向なども含む記録からは、地域的な循環系を推定することが可能となる。19世紀以降には、日本の近海で欧米の船舶などによる気象観測記録が残されるようになり、同時に複数の観測記録が得られることがある。それらから北太平洋高気圧などの変動が示されるが、寒暖の・乾湿の変動とはやや相異することもある。

 また日本周辺でも気候変動は災害発生などと深い関係がある。地域的差異、歴史的変容などにかかわるため、気候変動のもつ意味は大きい。とくに13世紀頃の中世温暖期から小氷期への移行期、19世紀頃の小氷期以降の温暖化期には太平洋高気圧の盛衰など循環系との関係がみられる。欧米に大きく影響する北大西洋周辺の気候変化と、日本での北太平洋周辺の気候変化は、寒暖などに注目する場合には相異するところがあるが、循環系の変化を介するなら地球規模での変化として理解が進むこととなる。

4 気候変動とのかかわり

 15世紀半ばに現れた顕著な寒冷期間は、その頃は太陽活動が低下したシュペーラー極小期であったこと、また活発な火山活動が伴っていたこととも整合している。15世紀半ばには日本でも社会的な不安定化が起きた。同様のことは気候に大きな変化がおきた19世紀半ばにもみられる。それぞれの変動について対応がみられることには、個別の側面から捉えるのみならず、比較や統合に向けて分析を進めることの必要を示している。

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