日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 110
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発表要旨
北海道南部,静狩湿原の地形とその歴史について
*船引 彩子田代 崇林崎 涼中村 絵美
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抄録

1. 北海道,静狩湿原

 北海道南部,渡島支庁管内山越郡長万部町に位置する静狩湿原は,太平洋(内浦湾)に面した海岸平野に形成された湿原で,北海道の低地に発達する高層湿原の南限とされている.

 1922年に「静狩泥炭形成植物群落」として国の天然記念物に指定されたが,1951年の指定解除後は大規模な排水路が湿原内に掘削され,農地化が進んだ.現在でも一部に湿原が残るが,その面積は221ha(1953年)から6ha(1990年)と大幅に縮小している(富士田・橘,1998).

 本発表では,空中写真の判読や現地での聞き取り,絵地図などの歴史資料を用い,静狩湿原の地形と歴史の関係を調査した結果について報告する.

2. 浜堤列と湿原

 1948,1976年撮影の空中写真を用いて静狩湿原周辺の地形分類図を作成したところ,海岸線に沿って南北にのびる3列の浜堤列が確認された.海側の2列の浜堤は標高4〜5m程度で,後背湿地には1951年頃まで浮島が存在しており,静狩湿原の範囲はこの海側の浜堤まであったとされる(富士田・橘,1998).明治初期の絵地図では,浜堤上にアイヌの人々の住居も確認された.

 現在の静狩湿原は最も内陸側の浜堤より,さらに西側の地域に限定される.林崎ほか(2020)によると,残存する静狩湿原の泥炭の下位に位置する砂層やテフラからはおよそ3-1kaの年代が得られており,この時期に湿原が形成されたことがわかる.

 内陸側の浜堤は3列のうち最も大きなものだったが,1951年以降は砂利採取のため地形改変が進んでいる.隣接する道路面は標高約6m,かつての浜堤内部と思われる地点はそれより約3m掘り下られ,現在は農地に転用されている.

 また,残存する湿原部分でドローン撮影を行ったところ,開拓当時の暗渠と思われる地形が検出された.長万部町には開拓当時の設計図や暗渠の分布を示す資料が残っておらず,乾燥化が進む湿原をモニタリングしていく中で重要なデータと言える.

3.戦後の開拓

 静狩湿原では農地転換後,もち米やジャガイモの生産も試みられたが,現在は大部分が牧草地となり,酪農がおこなわれている.経済的効果を期待して行われた戦後の開拓であったが,現在では初期の開拓者の9割以上が静狩湿原を離れている.

 湿原の復活・保護を望む声もあったが,1960年代以降の原野商法によって所有者がさらに細かく分かれるなど問題も多く,湿原の復活に向けた動きは道半ばである.

引用・参考文献

富士田裕子・橘ヒサ子(1998)本国指定天然記念物静狩湿原の変遷家庭と現存植生.植生学会誌,15,7-17.

林崎 涼・田代 崇・船引彩子(2020)北海道南部静狩湿原より採取した堆積物中の火山灰と基底砂層の年代に関して.日本地理学会2020年秋季学術大会.

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