日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 534
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発表要旨
サンゴ礁海草帯の堆積過程
*佐野 亘藤田 和彦平林 頌子横山 祐典宮入 陽介Toth LaurenAronson Richard菅 浩伸
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抄録

はじめに

 サンゴ礁地形の形成過程に関するこれまでの先行研究は,主に礁嶺の固結した礁石灰岩コアを用いて礁嶺の形成過程に焦点が当てられてきた(e.g. Kan et al., 1991).しかし,海草帯に代表される未固結堆積物で構成された沿岸域に関しては,その地形発達プロセスに関する科学的知見が少ない状況である.海草帯とは,サンゴ礁の沿岸に近い地域に形成される海草類の群落であり,サンゴ礁の生態系を支える重要な役割を担っている場所である(Unsworth et al., 2018b).本研究は,サンゴ礁地形発達史における海草帯の形成過程を明らかにすることを目的とした.

現地調査と分析手法

 本研究では,琉球列島久米島の東部,オーハ島の南沖とイーフビーチ沖の2地域において採取されたサンゴ礁海草帯の未固結堆積物コア試料(最大掘削深度4.2 m)を用いた.コア採取地点の底質は枝サンゴ礫を多く含む砂泥質の堆積物であり,リュウキュウスガモ(Thalassia hemprichii)やウミジグサ(Halodule uninervis)などの海草類が卓越した場所である.またコア試料採取地点および周辺地域における現地調査を行い,現生の海草葉上に多数の底生有孔虫(Amphisorus hemprichiiCalcarina calcarinoidesなど)の生息を確認した.コア試料は5 cm毎にサブサンプリングを行い,九州大学にて実体顕微鏡や電子顕微鏡による構成物の観察とX線回折装置を用いた鉱物分析を行った.また東京大学大気海洋研究所のAMS(加速器質量分析器)を用いて,サンゴ礫や有孔虫化石の放射性炭素年代測定を行った.さらに,堆積物中の大型底生有孔虫の群集解析を行い,現生有孔虫の生息分布との比較から海草帯の堆積環境の復元を行った.

海草帯の堆積過程と形成年代

 放射性炭素年代測定の結果,各地域の堆積年代はオーハ島沖が約6700-4500 cal yr BP,イーフビーチ沖が約4100-3200 cal yr BPであった.また各地点の堆積速度から,オーハ島沖は中期完新世の穏やかな相対的海水準の上昇に伴って形成されたオンラップ型の堆積場であり,イーフビーチ沖は海水準が安定した後に形成されたオフラップ型の堆積場であることが明らかになった.

堆積物の構成物分析と有孔虫群集解析の結果,イーフビーチ沖では水深2.5 m(掘削深度1.0 m)以浅でCalcarina calcarinoidesが急激に増加していることがわかった.Calcarina calcarinoidesは主に海草藻場において優占的に出現することが明らかにされており(藤田他, 1999),また現地調査でも海草葉上に多数生息していることを確認していることから,Calcarina calcarinoidesを指標としてイーフビーチ沖には3.9 ka BPから海草帯が形成されたことが明らかになった.一方オーハ島沖では,明瞭な海草帯の痕跡は発見されなかった.しかし,Calcarina defranciiCalcarina gaudichaudiiなどの群集組成比の変化から,6.1-5.5 ka BPにかけてオーハ島沖の堆積場が外洋的環境から現在の浅礁湖(ラグーン)的環境へと変化したことが明らかになった.

謝辞:本研究はH28〜32年度科研費 基盤研究(S) 16H06309「浅海底地形学を基にした沿岸域の先進的学際研究 −三次元海底地形で開くパラダイム−」(代表者:菅 浩伸)の成果の一部です.

参考文献

Kan et al. (1991). Geographical Review of Japan, 64, 2, 114-131

Unsworth et al. (2018b). Conservation Letters, Vol. 12.

藤田和彦 他 (1999). 化石, No. 66, pp.16-33

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