日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P174
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発表要旨
箱根外輪山における偏形樹と風系との関係
*勝又 優里赤坂 郁美
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抄録

1. はじめに

箱根地域は、大涌谷をはじめとする独特の火山地形、神奈川県で唯一の湿原である仙石原湿原やカルデラ湖である芦ノ湖、ブナ・ケヤキなどの落葉広葉樹を主とする自然林などが分布する地域である。そのため、箱根地域の自然環境について様々な分野において調査が行われている。

本研究では、箱根の風系を調査する。箱根全体での風系を明らかにすることは、全国的にみても観光客が多く、仙石原のススキ草原の野焼きや駒ヶ岳ロープウェイ運用などの風の影響を把握する上でも重要であると考える。

風系について調査する方法の一つには、偏形樹による調査がある。Yoshino(1973)は、国内では北海道から中部日本までの主に亜高山帯の偏形樹を調査し、独自の偏形樹の分類、偏形樹のグレード分けを行った。しかし、箱根周辺においては過去に偏形樹の調査をした研究があまりないため、本研究では箱根外輪山における偏形樹の調査をし、偏形樹の分布と風向特性との関係について明らかにすることを目的とする。

2. 調査方法と使用データ

箱根外輪山における偏形樹を調査するために外輪山の稜線上周辺を一周調査した。クリノメーターで偏形方向を、Geographicaで位置情報を記録した。調査時には偏形樹の写真を撮影し、樹種を特定した。調査手段は、登山道がある場所は徒歩、登山道がない場所や歩行困難な場所は自動車を使用し、調査した。調査は2019年の8月から9月にかけて行った。

調査後は、Yoshino(1973)を基に確認できた偏形樹の偏形形態(偏形度とグレード)を判断した。偏形度はⅠ型からⅢ型に分けられるが、今回の調査では、偏形度はⅢ型のみが出現した。グレードに関しては、Yoshino(1973)に基づき、針葉樹と広葉樹に分けて5段階で設定した。

次に、偏形樹の形成に影響を及ぼす風との関係を考察するために、周辺の風向と風速の観測のデータから季節別に風向出現頻度を算出した。箱根内の観測地点は箱根湯本、元箱根、宮ノ下、仙石原の4地点で、2014〜2018年の箱根消防署の1時間値の風向観測データを使用した。箱根外の観測地点は小田原、御殿場、三島で、1978〜2018年の気象庁のアメダスの1時間値の風向観測データを使用した。

3. 結果と考察

偏形樹調査の結果、針葉樹の偏形樹を31本、広葉樹の偏形樹を45本確認した。樹種はほとんど広葉樹がイヌツゲ(Ilex crenata)、針葉樹はヒノキ(Chamaecyparis obtusa)であった。

箱根外輪山において、偏形樹は、外輪山西側は東北東に、北側では北東に偏形しているものが多く、山域によって違った傾向を示した(図1)。また、北側の明神ヶ岳周辺と黒岳〜山伏峠周辺(図1の太線部分)は特に偏形樹が集中しており、グレードも大きくなっていることから、この周辺は強風が吹く場所であると考えられる。

三島、宮ノ下、仙石原、湯本の風配図と図1から、箱根外輪山の偏形樹を形成する風は複数あると考えられた。外輪山西側は暖候期の日中に駿河湾から吹く海風と箱根外輪山を吹き上がる谷風の合流によるものである可能性が高い。外輪山北側は年間を通しての宮ノ下、仙石原、湯本からの地形による風が影響していると考えられる。

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