日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P134
会議情報

発表要旨
空中写真を用いた簡便なオブジェクト分類による土地被覆抽出方法
*黒田 圭介宗 建郎
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

Ⅰ.はじめに

 デジタル化空中写真を人工衛星データと同じ取り扱いでオブジェクト分類によって解像度1m程度の土地被覆情報を取得する方法は坪田ほか(2010)などすでに報告されている。しかし,空中写真はRGBの色調の反射率データしかなく,植物と人工地物を分ける根拠となるような近赤外域の反射率データは含まれないので,高詳細な土地被覆分類図作成には誤分類を減少させるためにもworld view3のような人工衛星データを用いることが多い。ただし,このような解像度が1m未満の人工衛星データは価格も高く,オブジェクト分類を実行できるアプリケーションも一般的に高価で,リモートセンシングが専門ではない地理の研究者が手軽に行うには,具体的な操作方法の困難さも含めてハードルが高いように思われる。

そこで筆者らは,地理学界に広く簡便にオブジェクト分類による高解像度土地被覆分類方法の普及を目指して,人工衛星データの近赤外域の反射率データをコンポジットした空中写真と,フリーGISソフト「QGIS」及び,これに実装されたフリーのオブジェクト分類を可能とするアプリケーション「Orfeo Toolbox」を用いて,福岡県北九州市のカルスト台地平尾台の石灰岩を事例に,その抽出(分類)方法をまとめる。さらに,ピクセルベースの最尤法分類で作成した分布図と精度比較を行う。

Ⅱ.研究方法

1.研究対象地域及び使用した画像:研究対象地域は福岡県北九州市小倉南区のカルスト台地平尾台とした。オブジェクト分類及び最尤法分類に用いたデジタル化空中写真は国土交通省国土地理院が1994年10月23日に撮影したもので,この空中写真にコンポジットする衛星画像は,2008年11月13日観測のALOS AVNIR2の近赤外域のband4画像である。なお,空中写真と衛星データのコンポジットは,QGISの機能「バーチャルラスタの構築(カタログ)」で行うことができる。

2.使用したアプリケーション:Orfeo Toolboxが標準搭載されているQGIS2.8.9を使用した。他のバージョンでは搭載されていない可能性があるので解析前に確認する必要がある。

3.オブジェクト分類の方法:まず,教師データをポリゴン形式のベクタデータで作成し準備しておく。なお,今回はカルスト台地における石灰岩地の抽出を事例とするが,色調が似ており分類が困難なアスファルトによる道路も含めて石灰岩地として教師データを作成した。次に,QGIS2.8.9でコンポジット空中写真と教師データを展開し,プロセッシングツールボックスからOrfeo Toolboxの「Image Filtering(Step1)」及び「Segmentation(Step2〜Step4)」機能を用いてオブジェクト分類を行う。基本的にStep1からStep4まで指示通りにデータを入力すれば,ポリゴン形式のベクタデータで土地被覆分類図が作成できる。このデータと教師データをデータマネジメントツールの「Join attributes by location」機能を用いて結合すれば,属性データがすべてのポリゴンに付与される。

Ⅲ.結果

図1に解析地域の一部の空中写真を,図2に石灰岩地の抽出結果を示す。視覚的には石灰岩地及び道路をほぼ正確に抽出できているが,裸地や草地を抽出している箇所も見られる(図中矢印で一例を示した)。

Ⅳ.分類精度(まとめにかえて)

 同じ空中写真を用いて作成した最尤法分類での土地被覆分類図による石灰岩地の抽出(分類)精度は84.5%,オブジェクト分類によるものは83.3%でほぼ同じ精度となった。これらの精度を単純に比較することはできないが,ピクセルベースの最尤法分類で発生する微細な誤分類(salt and pepper noise)は,オブジェクト分類では目視上ほとんど発生しなかった。そのため,解像度1m程度での土地被覆の抽出に関しては,オブジェクト分類の方が現実に即した結果を得られる可能性が高いと考えられる。また,安価な方法での土地被覆分類法は研究上だけでなく,地理教育での教材作成にも有用であると考える。今後は精度のさらなる向上と、応用方法が検討課題である。

参考文献:坪田幸徳・岡田恭一(2009):空中写真を使ったオブジェクト分類手法によるタケ林の面積推定.日本森林学会大会発表データベース 120, 479-479.

著者関連情報
© 2020 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top