日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 815
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発表要旨
狭山丘陵の水環境に関する水文地理学的研究(4)
*乙幡 正喜小寺 浩二矢巻 剛
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抄録

Ⅰ はじめに

 埼玉県内の新河岸川流域は、昭和30年代以降の高度経済成長期から市街化率が急速に高まっている地域である。かつて水質悪化が顕著な地域であったが、近年は流域下水道や親水事業で水質が改善しつつある。しかし、狭山丘陵に位置する支流の上流部においては依然水質が改善していない地域も存在し、汚染源の特定や水質改善を図っていくには源流域における調査・研究が重要である。2年間にわたり狭山丘陵周辺において河川を調査した結果をもとに、水質を中心とした水環境の特徴を考察する。

Ⅱ 対象地域

 狭山丘陵は、東京都と埼玉県の5市1町にまたがる地域である。丘陵の周辺地域では高度経済成長期に都市化が急速に進む一方、多摩湖や狭山湖の周辺には森林が分布し、里山の環境を残している。河川のほとんどは新河岸川水系に属する支流で、狭山丘陵はそうした水流の源流部である。残堀川は南東に流れ多摩川水系となっている。

Ⅲ 研究方法

 既存研究の整理と検討を行った上で、現地調査は2017年11月から2019年10月まで月に1回、合計24回実施した。2017年11月・2018年2月・5月・8月・11月・2019年2月・5月・8月は56地点の調査を実施し、その他の月は34地点の調査を実施した。現地では、水温、気温、電気伝導度(EC)、比色pHおよびRpH、を計測し、採水して実験室に持ち帰り、全有機炭素の測定と主要溶存成分の分析を行った。

Ⅳ 結果・考察

 全体としてECは、100−300μS/cm前後の地点が多かったが、不老川の上流域の大橋では一時4000μS/cm以上の高い数値を示している。一方で、南西部の一部河川・湧水では100μS/cmを下回る良好な水質を示す地点あった。空堀川中流域では、生活排水や乳製品製造工場の排水が流入しており800μS/cm前後の高い数値を示している。

 pHは7.5−8.8前後であり、柳瀬川流域及び空堀川流域では、上流部から下流部に行くにしたがってpHが高くなり河川への負荷が高まっている。空堀川中流域の下砂橋では9.0を超え、滞留時間が比較的長いことが考えられる。RpHは、南西部の一部河川・湧水を除いてほとんどの地点で8.0−8.5前後である。これは河川水に対する地下水の寄与が大きいもの考える。

 今回の調査地点の中において、公共用水域測定点で、柳瀬川の二柳橋が1984年からBODが定点観測されている。1987年は、BODが38 mg/ⅼであったが現在では1 mg/ⅼ位となり水質は著しく改善されている。2018年5月のCODは全体的に高く7mg/ⅼ前後の地点が多かった。2019年5月のCODは、2018年5月比べと全体的に低くなっている。4mg/ⅼ前後の地点が多かった。

Ⅴ おわりに

 狭山丘陵の南西部の一部の河川・湧水ではEC及びTOCが低い地点があったが、全体として都市域であるためECが高い地点が点在する。空堀川では、中流域でEC,TOCの数値が高く、下流に行くににしたがって河川への生活排水などの負荷が高まっている。また、不老川上流部では農地からの施肥の影響によりNO3濃度が高く、EC,TOCも高い数値を示した。農業による硝酸の影響が残る地点も分布していた。今後も継続的に調査を行い、季節変化などを注意深く考察する必要がある。主要溶存成分の分析結果を今後の研究に反映させたい。

参 考 文 献

森木良太・小寺浩二(2009):大都市近郊の河川環境変化と水循環保全—新河岸川流域を事例として—. 水文地理学研究報告, 13, 1-12.

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