日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S202
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発表要旨
地域運営組織の設立過程と地域的意義
*作野 広和
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抄録

Ⅰ 報告の目的と地域運営組織の概要

日本の農村は,1960年代にはじまった著しい人口流出による過疎化や,1990年代以降の高齢化などを要因として,多くの課題を有している。近年,これらの課題は都市でもみられるようになり,政府をはじめ各自治体において課題解決の試行錯誤が繰り返されている。一方で,住民自らの手で課題を解決する機運が高まりつつある。これまでの自治会や町内会など地縁型自治組織とは異なり,住民主体で地域マネジメントを意図したネットワーク型の地域運営組織が各地で構築されつつある。本報告では,地域運営組織の設立過程を改めて検証することで,その地域的意義を見出すことを目的とする。

Ⅱ 地域運営組織の設立過程

地域運営組織の原形は,今日の広島県安芸高田市で設立された川根振興協議会だと言われている。同協議会は,中学校統合を契機として1972年に発足している。また,自治体全域で設立された例としては,2005年〜2007年に設立された島根県雲南市の地域自主組織が挙げられる。以降,鳥取県南部町の地域振興協議会,広島県三次市の住民自治組織など,自治体全域を対象とした地域運営組織が相次いで誕生している。背景には2004年〜2005年にかけて集中的に行われた市町村の広域合併が強い影響を与えている。市町村域にくまなく住民自治組織を設立することで,行政機能の補完・代替を機能させる意図が見てとれる。こうした動きを担保するために,協働の概念の下,条例等で住民自治組織の設立が明文化されていった。住民自治組織の設立を促進したり規定したりする条例や要綱は,広域合併後の2006年から2011年に多くが制定されている。一方で,当時は地域運営組織という表現はみられない。

地域運営組織という表現は,2014年3月に報告された総務省「RMO(地域運営組織)による総合生活支援サービスに関する調査研究報告書」にはじめて明記されたと思われる。同報告書では「地域の暮らしを守るため,地域で暮らす人々が中心となって形成するコミュニティ組織により生活機能を支える事業(総合生活支援サービス)の事業主体」を地域運営組織(Regional Management Organization,RMO)と定義している。当時は,コミュニティビジネスなどの事業運営に力点を置いた検討がなされていることや,地域包括ケアシステムを念頭に置いた概念であることが読み取れる。その後,総務省は今日に至るまで,地域運営組織に関する研究会を設置し実態調査とそれに基づく議論を継続しているが,その過程で少しずつ概念も変化させている。

一方で,地方創生法(2014年)にもとづく文脈では,複数の集落によるネットワークを集落生活圏と称し,その中心として「小さな拠点」を整備し,それらを束ねる組織として地域運営組織が位置づけられている。今日では地域運営組織の運営に係る経費について地方交付税措置を行ったり,地域運営組織の起業支援等に係る費用を特別交付税の対象としたりするなど,国は地域運営組織の設立を強く推進している。

地域運営組織の地域的意義

地域運営組織を設立することの地域的意義は,以下の4点にまとめられる。第1に,小学校区程度の広域的組織であること,第2に,地区内の多様な主体が参画すること,第3に,1人1票制や部会制の導入など新たな合意形成のスタイルを用いていること,第4に,住民が主体となって地域を運営することによるガバナンスの確立を目指していることである。

地域運営組織が有するこれらの特徴は,自治会や町内会といった地縁型自治組織とは異なり,現代社会にあった新しい住民自治組織である。そのような意味では,2010年前後に盛んに議論された「新しい公共」ないしは「新たな公」を体現したものが地域運営組織であるといえる。このように考えると,地域運営組織は地域における新しい自治組織や事業主体といった位置づけに留めるべきではない。地域運営組織は,イエ・ムラ論に基づく,硬直化した地縁型自治組織とは異なる,オルタナティブな住民自治組織であることが理解できる。地域運営組織の設立は,地域が新しい時代に対応するための脱皮のような作業とも言えよう。

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