日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 905
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発表要旨
段階的意思決定を考慮した時空間アクセシビリティ指標
*増山 篤
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抄録

地理学において、活動機会への近づきやすさを意味する「アクセシビリティ」は、重要な概念である。そして、近づきやすさの程度を評価するさまざまなアクセシビリティ指標(Accessibility Measure, 以下AM)がこれまでに提案されている。

アクセシビリティは、いくつかの次元によって規定されるが、その重要な一つに、個人の時間的制約がある。その重要性ゆえ、計量地理学や地理情報科学では、時間的制約を考慮に入れたさまざまな「時空間アクセシビリティ指標」(Space-Time Accessibility Measure、以下STAM)が提案されてきた。

さまざまなSTAMがあるものの、その多くは、個人の意思決定プロセスを考慮しておらず、行動理論的基盤を欠いている。例外として、Miller (1999) によって定式化されたログサム型STAMがある。具体的に言うと、MillerのSTAMは、ランダム効用理論に基づき、時空間制約下での選択行動は多項ロジットモデルにしたがうという仮定から導かれる。

MillerによるSTAMは、異なる意味でも、理論的に好ましい性質を有する。Weibull (1976) は、AMには自然に満たすべき性質があると論じ、それらを公理として挙げている。MillerのSTAMは、Weibullによる公理をすべて満たす。

二つの意味で理論的には優れているものの、MillerのSTAMは実用性に欠いている。具体的には、選択行動データからパラメータ推定を実行することが極めて困難である。この難点は、効用関数および選択肢集合に関する仮定に由来する。特に、非線形効用関数の仮定によるところが大きい。

MMの抱える難点に鑑み、本発表者は、線型効用関数を仮定し、かつ、どの活動機会も訪れないという選択肢を導入することで、MillerのSTAMと同様の理論的利点を持ちながら、なおかつ、パラメータ推定が容易なSTAMを定式化した(Masuyama, 2020)。また、ケーススタディを通じて、その有用性・妥当性を示した。しかし、そこで仮定されている意思決定過程は検討の余地を残している。

先に定式化したSTAMでは、どの活動機会も訪れないという選択肢も、いずれかの活動機会を訪れるという選択肢も同列に並べて比較するという(多項ロジットモデル型の)選択行動が仮定されている。しかし、段階的な選択行動を仮定する方が現実的であるようにも思われる。具体的には、まずは、いずれかの活動機会を訪れるかどうか選択し、そして、どこかを訪れると選択した場合には、行き先となる活動機会を選択する、と仮定する方が妥当だとも考えられる。

この研究では、ネスティドロジットモデルにしたがう段階的意思決定を仮定した場合の期待最大効用に相当するSTAMを導出した。このSTAMも、ランダム効用理論に基づくものであり、したがって、Millerや本発表者によるSTAMと同様の行動理論的基盤を持つ。また、本発表者が先に導出したSTAMと非常に似た式形で与えられ、そのことから容易に示されるように、WeibullによるAMの公理をすべて満たす。そして、既存の統計パッケージを使って、パラメータ推定を実行することができる。さらに、仮想的な時間的制約下でどのような行動をとるかを回答させるアンケート調査を実施し、そこで得られたデータ(SPデータ)を用いて、ネスティドロジットモデルに基づくSTAMのパラメータを推定するケーススタディを実行した。その結果は、この研究で導いたSTAMの妥当性を示唆するパラメータ推定値が得られた

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