主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2020年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2020/03/27 - 2020/03/29
1.はじめに
生物多様性の保全とその持続的な利活用は、住民の生活・生産環境の保全をはじめ観光振興や伝統文化の保全等地方自治体のさまざまな施策に深く関係している。長野県では、2012年に生物多様性基本法に基づく生物多様性地域戦略として「生物多様性ながの県戦略」を策定し、以後これに基づいて各種施策を推進してきたが、市町村レベルでの取組はあまり進んでおらず、生物多様性地域戦略の策定もごく一部の市町村に留まっている。生物多様性は地域ごとに状況が異なるため、その保全と利活用についても地域に根ざした取組が必要であり、市町村や市民団体による取組の推進が期待される。そこで、長野県内市町村における生物多様性保全に対する認識や取組状況を把握し、今後の施策検討に必要なデータを得ることを目的にアンケートを実施したので、その結果を報告する。
2.調査方法
アンケートは2019年10月から11月にかけて実施した。質問票は長野県庁自然保護課から県内全77市町村(19市、23町、35村)の自然保護担当課へ電子メールに添付して配布した。回答は電子メールまたはファックスで受け付け、回収率は100%であった。
質問内容は、生物多様性の現状等に対する認識、生物多様性保全のために実施した事業や実施する上での課題、生物多様性地域戦略の策定検討状況等全11問である。
3.調査結果の概要
3.1 生物多様性の現状認識
各市町村内の生物多様性の現状を「豊かだと思う」と回答した市町村は55%であった。一方、10年前と比較して生物多様性が「貧弱になった」と回答した市町村が31%あり、生物多様性は豊かではあるが劣化しつつあるとの認識をもつ市町村が一定程度存在していると考えられた。
また、生物多様性が地域資源として「重視されていると思う」と回答した市町村は49%であったが、生物多様性が「豊かだと思う」と回答した市町村ほど回答率が高い傾向がみられた。
3.2 保全対策と課題
生物多様性の保全上とくに問題となっていることとして「外来種の増加」を挙げた市町村が57%でもっとも多かった。また、生物多様性の保全のために行政が重点的に取り組むべきこととして、「外来種の駆除」を挙げた市町村が64%であった。実際に実施した事業としても48%の市町村が「外来種の駆除」を挙げており、市町村レベルでは外来種への対応に苦慮している状況が推察された。
一方で、実施した事業が「とくにない」と回答した市町村が21%あったが、内訳は市0%、町17%、村34%であり、規模の小さな自治体ほど事業が実施されていない現状が明らかとなった。
市町村が生物多様性を保全する上で優先的に解決すべき課題としては、「人員不足」を挙げた市町村が56%でもっとも多く、次いで「予算的な問題」が44%であった。
3.3 地域戦略の策定検討状況
生物多様性地域戦略を策定済みの市町村は4%、策定予定が1%であり、これらはすべて市であった。生物多様性地域戦略の必要性については、「必要」と回答した市町村が30%であったが、内訳は市53%、町22%、村23%であり、とくに町村において生物多様性地域戦略の必要性すらあまり認識されていない現状が明らかとなった。
4.おわりに
長野県は全国的にみれば自然豊かな県と評されることが多く、それを目当てとする観光客や移住者も多い。アンケートでも多くの市町村において生物多様性が豊かであると自認され、それらが地域資源として活用されている状況が推察された。しかし、保全の取組については、外来種以外の対策はあまり実施されておらず、予算や人員の不足が影響していると考えられた。
長野県には規模の小さな自治体が多く、生物多様性の保全までは手が回っていない状況が推察される。今後も“豊かな”生物多様性の恵みを享受し続けるためには、複数市町村による広域的な取組など、保全体制の構築が今後の課題である。