日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 302
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発表要旨
日本国内における出生率の地域差とその規定要因
―国勢調査市区町村統計表および都市雇用圏による分析―
*薄井 晴
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抄録

1.既往研究の課題と研究目的

 出生率は地方部で高く都市部で低いという傾向が,欧米諸国や日本で共通して確認されている.しかし,そのような分布パターンが生じる要因が解明される段階には至っていない(Kulu 2013).

 このように出生率の空間的分布パターンが立ち遅れている原因としては,市区町村別統計表を分析する際の作業量が膨大である点と出生率の地域差が生じる要因が多岐にわたる点が想定される.しかし,インターネット上での統計表公開が進み,とくに前者の障壁は克服可能なものになりつつある.

 以上を踏まえ本研究では,全国的かつ通時的な統計分析を実施し,合計特殊出生率の地域差が生じる要因として有力な仮説を提示することを目的とする.

2.研究方法

 本研究ではまず,Kulu(2013)の枠組みに基づき,出生率の規定要因として想定される候補を提示する.そのうち,国勢調査を用いた指標化が可能であるものを取り上げ,合計特殊出生率との単相関分析を行う.分析対象地域は日本全国,分析対象年次は2000年以降とし,分析指標の数は最大157となった.

 なお,本研究では可変単位地区問題によって分析結果の解釈に混乱が生じることを避けるため,以下の手順を踏まえる.

(1)都市雇用圏を用いて市区町村を「中心都市・郊外・都市雇用圏外」等に区分する.そして,その区分別に合計特殊出生率の構成比を検討することで,出生率分布により厳密な説明を加える.

(2)相関係数を計算する際には,都道府県と市区町村の両方を分析単位として設定し,両者の結果を比較しながら分析する.

3.都市雇用圏と合計特殊出生率の関係性

(1)「大都市雇用圏に含まれる自治体」「小都市雇用圏に含まれる自治体」「都市雇用圏外」の順に,合計特殊出生率の高い自治体の割合が増していく傾向が確認された.

(2)「中心都市」「郊外」「都市雇用圏外」の順に,合計特殊出生率の高い自治体の割合が増していく傾向が確認された.ただし,2005年になるとこの傾向は小都市雇用圏を中心に変化する.

(3)都市雇用圏を総人口で区分した結果,都市雇用圏内の総人口が増加するにつれて,合計特殊出生率の高い自治体の割合が減少していく傾向が確認された.

 以上の結果より,出生率の地域差を分析する際に,都市圏構造を無視することはできない点が指摘される.

4.合計特殊出生率と規定要因の候補との単相関分析結果

 正の強い相関関係が確認された指標は,高齢人口割合の高さ,1世帯あたり人員の多さ,通勤時間や通勤距離の短さ,住宅の広さ,居住地移動の少なさに関するものであった.負の強い相関関係が確認された指標も,上の結果と概ね対応するものであった.

 以上の結果より,独立転居によって親族から子育て世代への支援が減少している点,人口過密問題によって長い通勤時間や狭小な住宅が強いられている点が,とくに都市圏の中心都市・郊外における合計特殊出生率の低下に寄与していることが推測される.

参考文献

Kulu, H. 2013. Why Do Fertility Levels Vary between Urban and Rural Areas?. Regional Studies 47: 895-912.

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