日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 822
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発表要旨
衛星データを用いたアムール川流域における永久凍土分布の可視化
*田代 悠人楊 宗興白岩 孝行大西 健夫
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抄録

1. はじめに

 アムール川流域の湿原から流出する溶存鉄は、オホーツク海における植物プランクトンの一次生産を支える重要な栄養塩である。そのためオホーツク海への鉄供給量は、アムール流域内での湿原面積の増減によって変動すると考えられている。だがアムール川本流の溶存鉄濃度の長期観測では、湿原の増減で説明できない濃度ピークが1990年代後半に観測されている。1990年代は例年より気温の高い年が連続したことから、永久凍土の融解が原因であると推測された(Shamov et al., 2014)。そこで我々は、活動層内の溶存鉄生成メカニズムや河川の溶存鉄濃度の変動要因、永久凍土の分布に関する調査を行ってきた。その結果、永久凍土はロシア語で「Марь(マリ)」と呼ばれる湿原植生下に分布することが分かった。そこで本研究では、衛星データを用いて永久凍土分布の指標となる「マリ」の分布を特定することで、永久凍土分布の可視化を試みた。

2. 対象地と方法

対象地はアムール川の支流ブレヤ川の更に支流であるティルマ川流域である。この地域は点在的永久凍土地帯に相当する。谷部は平坦かつ広く、「マリ」と呼ばれる湿原植生が見られる 。クロマメノキやバグーリニクというツツジ科の湿性低木が地上を覆い、カラマツが点在している。低木類の間を埋めるようにミズゴケが絨毯状に存在し、地下には泥炭土壌が厚く堆積する湿原である。一方で勾配のある斜面や尾根部はカラマツ、シラカバ、及びトウヒから構成される森林が広がる。

Landsat-8のデータ(2017年7月)を用いて以下を求めた。

正規化植生指数(NDVI) = (NIR-RED) / (NIR+RED)

正規化土壌指数(NDSI) = (TIRS1-NIR) / (TIRS1+NIR)

正規化水指数(NDWI) = (RED-SWIR2) / (RED+SWIR2)

なお、これらの解析と地図の作成にはQGISを利用した。現地の測量結果及びグランドトゥルースから、植生を「マリ (湿原)」「氾濫原上の草原」「森林」の3つに大きく分類し、各植生におけるNDVI, NDSI, NDWIを求めた。

3. 結果と考察

「マリ」、「森林」、「氾濫原上の草原」はそれぞれ違うNDVI及びNDSIの範囲を取った (図.1)。そこでこの2値の範囲を条件に各植生を可視化した(図.2)。なおNDWIはこの2値程明確な違いが見られなかったため、今回はNDVIとNDSIを解析に利用した。これまでの調査から判断すると、図.2で赤く抽出されたマリは永久凍土分布と一致していると考えられる。この信憑性を確かめるため、2019年7月に採水したティルマ川流域内の24河川のdFe濃度 (mg/L) と集水域内の可視化した永久凍土面積の割合をプロットしたところ、きれいな正相関がみられた。 この結果は、活動層の泥炭土壌がdFe流出に大きく寄与しており、集水域内の永久凍土分布が河川dFe濃度に影響していることを示す。したがってNDVIとNDSIを用いて可視化した永久凍土分布は、河川のdFe濃度を説明するうえで実用性は高いだろう。今後は流域レベルでの河川dFe濃度の推定や永久凍土融解が河川dFe濃度へ及ぼす影響の推測への応用が期待される。

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