1 はじめに
山間部に位置する集落は,かつては地域の資源を活かした多様な生計活動や,他地域との様々な関係のなかでその社会・経済的基盤を構築していた.しかしながら,高度経済成長期以降は都市への人口流出が進み,過疎・高齢化が深刻な問題となっている.
他方,現在では,過疎対策や地方創生の流れを受けて,都市−農村交流や農山村移住が促進されている.また,近年の若年層の生き方・働き方に対する考えが変化するなかで,自己実現の場として農山村への移住や二地域居住が選択されている.
このように山村をめぐる他地域との関係は変容してきたと考えられるが,山村の地域社会変容を地域間ネットワークの視点から体系的に検討した研究は少ない.そこで本研究では,高知県吾川郡いの町本川(旧本川村)を事例に,人と資源に着目した地域間ネットワークの変遷と現状を体系的に明らかにすることを目的とする.
2 方法
本研究では,高知県吾川郡いの町本川を対象に現地調査を行った.本川では,2集落(越裏門・寺川)を対象として,個別訪問や座談会形式による聞き取り調査を実施した(2017年9・11月,2019年11月).質問項目は,山林利用,焼畑,行商,鉱山労働,日常生活の変化についてである.
また,他地域との関係について検討するために,四国山地を挟んで交流が深かったと考えられる愛媛県西条市旧大保木村東之川,旧加茂村川来須に居住経験がある住民に対する聞取り調査を行った.その他,関連する郷土資料の収集を行った.
3 結果と考察
高知県吾川郡いの町本川は,高知県中央部,愛媛県との県境に位置している.本川地区は四国山地の山々に囲まれており,中央部には吉野川が流れている.この地域はその地理的・経済的な孤立性から,かつては「高知県一の僻地」「狐狸のすまいどころ」と言われたこともある.現在では,高知市と西条市を結ぶ国道194号線や新寒風山トンネルにより,高知市内まで自動車で1時間20分程度,西条市内まで45分程度で行くことができる.
本川の人口は,戦後のダム建設等の公共事業により一時的に増加した時期もあるが,1960年代以降は減少傾向にある.高齢化率は47.1%であり,いの町全体の平均(35.7%)よりも高い.
住民は,1950年代半ばごろまでは焼き畑や林業を主な生業としていたが,都市への人口流出等の社会変化により,現在では林野・田畑の管理も問題となっている.
地域間ネットワークについては,山林利用,鉱山労働,交易,婚姻,日常の往来など様々な関係性が見られた.高知県内に限定されず,分水嶺を越えて,愛媛県側の集落との関係も多くみられた.
また,町村合併や,交通アクセスの改善などの社会変化も住民の買い物行動をはじめとする日常の生活に影響を与えていた.
今後は,他地域の山間部集落との比較研究を行い,地域間ネットワークにみられる地域差についてさらに検討していきたい.