日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 611
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発表要旨
養老山地東麓に分布する扇状地末端付近の堆積相と放射性炭素年代
*堀 和明中西 利典洪 完中島 礼
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抄録

はじめに

 山地の多い日本は豪雨や大地震に起因する土石流によって物的・人的被害を頻繁に受けてきたが,歴史時代以前の土石流発生時期に関する情報は少ない.須貝(2012)は養老山地東麓に分布する扇状地において露頭調査をおこない,角礫層を覆う腐植土壌層の年代にもとづいて土石流発生時期と断層活動時期との関係を議論している.本研究では土石流扇状地末端に着目し,ボーリングコア堆積物の層相や堆積年代にもとづいて,過去の土石流に関する評価を試みる.また,コア堆積物において同じ層準に認められた陸源植物片と海生の貝殻片の放射性炭素(14C)年代を測定し,完新世における海洋リザーバー効果についても検討した.

調査対象地と方法

 養老山地東麓にはほぼ南北方向に養老断層が走っており,山地と濃尾平野との境界付近には土石流扇状地が多数分布する.これらの扇状地のうち北から順に小倉谷,徳田谷,盤若谷の末端付近を調査対象地に選定した.機械ボーリングによって,小倉谷でORコア(標高1.07 m,掘削長32 m),徳田谷でTD1コア(標高1.07 m,掘削長15 m),盤若谷でHN1コア(標高5.36 m,掘削長35 m)とHN2コア(標高5.45 m,掘削長18 m)をそれぞれ採取した.HN1とHN2は直線距離で約200 m離れている.採取した堆積物について写真撮影,色調やかさ密度,砂泥比の測定をおこなった.14C年代は,KIGAMおよびDirectAMSにおいて加速器質量分析法によって測定した.海洋リザーバー効果の検討は,ORコアとHN1コアについておこなった.

結果と考察

 ORコアの大部分は最下部の礫層を除き,泥質な堆積物からなり,1)下部の泥質堆積物に小礫が混ざる,2)深度21.3-—21.5 m付近にK-Ahと考えられるテフラが認められる,3)泥質堆積物の堆積速度が大きい,4)貝の群集組成では上方浅海化が認められるが,砂の含有率が低いため,デルタの前進にともなう上方粗粒化がはっきりしない,といった特徴がある.

 TD1コアは深度6.3 m付近まで礫を主体とするが,深度6.3—13.7 m付近には細粒な堆積物も分布する.とくに深度13.3—13.5 mには貝殻片を含むシルトが堆積している.

 HN1コアとHN2コアでは深度10 m付近まで礫層や礫を含む砂層が堆積している.また,HN1コアでは貝殻片を含んだ泥質堆積物が深度約20 mより下位に10 m以上堆積している.一方,現在の盤若谷の流路により近いHN2コアではそれに対比される泥質堆積物はほとんど認められず,深度12.4 mで礫に達し,最下部の18.0 mまで礫層が続く.

 ORコアおよびHN1コアでは内湾〜浅海生の貝殻片を含む海成の泥質堆積物が厚く堆積していたが,明瞭な砂質〜礫質堆積物は認められなかったことから,土石流に起因する粗粒堆積物は両地点まで到達していなかったと推定される.一方,TD1コアにおいては4070–2150 cal BP,1530—330 cal BP,330 cal BP以降に粗粒な堆積物が確認された.また,HN1コアでは1820 cal BP以降に少なくとも3回,HN2コアでは1880-—720 cal BPに1回,910 cal BP以降に2回,粗粒な堆積物が認められる.これらの粗粒堆積物は土石流の発生と関連している可能性が高い.

 ORおよびHN1の各コアにおいて同層準から得られた植物片と貝殻片の14C年代値は,いずれの層準においても貝殻片の方が植物片に比べて古かった.両者の年代値の差は,ORコアで平均約400年(n=13),HN1コアで平均約330年(n=12)であった.

謝辞:この研究の一部に日本学術振興会の科学研究費補助金(17K18526, 18H01310)を使用した.

文献:須貝(2012)2012年度日本地理学会秋季学術大会,P016.

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