主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2020年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2020/03/27 - 2020/03/29
1.はじめに
東北日本弧外弧隆起帯にあたる北上山地は、太平洋岸に海岸段丘が発達するが、山地内では比較的地殻変動が不活発であると考えられて来た。そのため、詳細な活断層調査は積極的に行われず、山地北部の折爪断層を除いて、活断層はマッピングされていない(今泉ほか編,2018)。今回、国土地理院撮影の1970年代撮影のカラー空中写真(1:8,000〜1:15,000)を用いて北上山地全体の判読を行い、活断層の可能性がある多数の断層変位地形(推定活断層)を発見した。本発表では、それらの断層変位地形の分布と性質について速報する。
2.新たに発見された活断層の位置・形状
・折爪断層南方延長:本断層は、葛巻市街地の北方、折爪断層の南方延長部に分布する。折爪断層から連続する明瞭なリニアメントを横切る河谷の多くが左屈曲を示すことから、左横ずれ断層と推定される。折爪断層では横ずれ成分は知られていないが、本断層の性状から折爪断層でも左横ずれ成分を含む可能性が示される。
・岩泉断層:下閉伊郡岩泉町中央部を流れる小本川に沿って発達する、北西−南東から東西走向に延びる断層である。長さは17.1kmで、活断層研究会編(1991)では確実度IIIとされていたものである。明瞭なリニアメントを横切る多くの河谷が左屈曲を示し、一部で截断尾根状の地形が認められることから、左横ずれ変位が卓越する断層と考えられる。本断層の北方延長には明瞭なリニアメント地形が折爪断層まで延長する。今回の判読では断層変位地形は見出されなかったが、断層としては折爪断層に連続する可能性がある。
・小又川断層:花巻市東部、稗貫川の支流・小又川に沿って東北東−西南西に延びる長さ約6.5kmの断層である。リニアメントを横切る河谷の系統的な右屈曲が認められることから、右横ずれ断層と考えられる。ただし、屈曲はいずれもdown-hill方向であり、写真判読のみからは、確実な活断層とは言い切れない。
・能舟木(よいふなき)断層:釜石市東部、鵜住居(うのすまい)川の中流を横切って東北東−西南西に延びる長さ約9.1kmの断層である。リニアメントを横切る多くの河谷が右屈曲を示すことから、右横ずれ断層と推定される。ただし、屈曲のほとんどがdown-hill方向で屈曲の形態も明瞭ではないことから、確実な活断層とは言い切れない。
・遠野盆地東縁断層:遠野盆地の東縁の山地との境界に位置する南北走向、長さ約5.2kmの断層である。断層が低位面(扇状地)を横切る数地点において撓曲崖状の変形が発達することから、東上がりの逆断層と考えられる。ただし、撓曲は明瞭ではなく、土石流の末端等、初成的な地形の可能性も考えられること、その他の場所で新鮮な断層変位地形が認められことから、推定活断層とした。この断層はその分布と変位の向きから、遠野盆地の形成に関連している可能性が考えられる。
・世田米(せたまい)断層:気仙郡住田町中央部、気仙川の支流の大股川・小股川に沿って、発達する長さ約11.5km、西北西−東南東走向の断層である。リニアメントの地形を横切る多くの河谷が左屈曲を示すことから、左横ずれ断層と推定される。一部でup-hill方向の河谷の屈曲が認められることから、断層変位地形の可能性は高いと思われるが、屈曲およびリニアメントの地形がそれほど明瞭ではないため、確実な活断層とまでは言い切れない。
・飯森峠断層:気仙沼市街地付近から飯森峠を経て陸前高田市飯森付近まで延長する、長さ役13.1km、北北西−南南東走向の断層である。特に飯森付近において、リニアメントを横切る多くの河谷が左屈曲を示すことから、左横ずれ断層と推定される。ただし、屈曲はいずれもdown-hill方向で屈曲の形状も不明瞭なものが多いことから、推定活断層とした。
・その他の断層
今回の調査によって、北上山地には上記の断層以外にも長さ5km程度以下の短い推定活断層が数多くマッピングされた。これらのほとんどは河谷の屈曲から横ずれ断層と推定されたもので、北西−南東走向の断層は左横ずれ、北東−南西走向の断層は右横ずれである。
3.テクトニックな意義
今回マッピングされた断層は、遠野盆地西縁断層を除いて全て横ずれ断層であり、北西−南東走向で左横ずれ、北東−南西走向で右横ずれである。変位の向きから、これらの断層は東西圧縮場に対応して形成されたものと考えられる。また、リニアメント、河谷の屈曲ともにシャープで明瞭なものがほとんどないことから、活動度は高くはないと思われる。今回発見された活断層は地質断層に沿ったものが多く、既存の断層の再活動の可能性が高い。短い断層が多く、全てが起震断層となるとは思えないが、一部大規模なものについては低頻度ではあるがM7クラスの地震を発生させる可能性があり、注意が必要である。