日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 913
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発表要旨
北海道内JR地方路線に関する処遇の現状と課題の困難性
-JR北海道問題への研究の枠組みの提示と、全道沿線自治体調査からの抽出点を中心に-
*武田 泉松本 涼太
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抄録

JR北海道は事故多発を契機に、同社の経営問題が地方路線の維持困難化に波及し、JR地方路線の存廃問題が同時多発した。しかしこうした鉄道問題の把握は、施策面や地域振興面をはじめ広範に情報収集し、道内の鉄道存続への施策対応との比較検討をし、道内の地域事情の明確な把握を目指す。そうした問題を複合的かつ総合的に把握する必要があり、それに見合った複合的な調査研究が不可欠となる。今回の報告では、この「JR北海道問題」に関わる調査研究及び分析手法についての枠組みの提示を行い、また実施した調査内容の一つとして、沿線自治体担当者取材調査(ローラー作戦)について、その概要の報告を行うものとする。

 今回の調査研究では、施策編(交通政策、地域政策等)、分析編(心理統計・社会調査、半構造化面接等)、地域振興編(地方創生、住民活動等)に分けて、報告を行っていくものとする。特に、施策面の把握では、行政機関等の主催によるフォーラム等での情報収集を、住民・道民による意向の把握に関しては、対象や属性が複合的なため心理統計等の手法を使ったアンケートによる意向調査やインタビュー調査を行い、さらには地域創生に関わる振興効果や町おこしとの関連に関しても、検討を行った。

 次に、施策編の一環として、道内の沿線の取組みと比較すべく、道外での地方鉄道沿線の取り組み事例として、秋田内陸線とJR木次線沿線等での行政や住民の取組みについて検討し、道内事例への示唆を抽出した(既に、2019年10月の東北・北海道地理学会にて報告済)。それらを踏まえ、今回新たに沿線自治体担当者取材調査(ローラー作戦)を行った。すなわち、維持困難路線等(並行在来線経営分離区間や一部その他の路線沿線を含む)の沿線自治体を全て訪問し、担当者への聞き取りを実施した。そこでは、調査項目として、維持存続への意向、費用負担、まちづくりとの連携性、観光での利活用、独自支線策の有無、自治体独自の実態調査、住民以降の把握、沿線住民団体の有無、対・協議会への意識、道庁からの独立性等を設定して実施した。その結果の概要では、鉄道存続への自治対応では、鉄道の特性としての広域連携の不足(自分の自治体のことしか考えない)、取り組みの散発性、各アクター(事業者(JR)・行政・住民)の間の連携不足、観光利用に特化し地元利用を極端に軽視する姿勢(交通手段としての機能軽視)、協議会の密室性と構成メンバーの限定性、道庁への「忖度」が認められる、等の諸課題が抽出された。またこれらの諸課題では、本州方面の沿線事例と比べて大きな乖離が認められ、それは情報不足や各アクター(事業者(JR)・行政・住民)の間の連携不足が、大きく影響しているものと考えられる。

 なお、本研究の今後の展開としては、次回以降の報告でアンケート等の心理統計・社会調査的分析結果や、施策編、並びに地域振興編における調査結果の提示と、分析・考察を行っていくことを想定している。

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