日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 506
会議情報

発表要旨
最小スケール気候変動適応策としての被服色彩選択効果について
*一ノ瀬 俊明
著者情報
キーワード: 適応, 色彩, 被服, 放射, 近赤外領域
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

前報(2012年春季大会)では、日中屋外で色彩以外が同一規格の衣料(U社製、同一素材・デザインのポロシャツ、色違いの9色)を用い、表面温度の経時変化を観測した結果を報告した。色彩による温度差は明瞭であり、白、黄がとりわけ低く、灰、赤がほぼ同じレベルで、紫、青がさらに高めで拮抗し、緑、濃緑、黒が最も高温のグループを形成した(e.g. Lin and Ichinose, 2014: IC2UHI3)。また、一般に日射が強まるとこの差は顕著となった。可視光の反射率(明度)が表面温度を決める支配的要因の一つであると考えられるが、太陽放射の少なからぬ部分を占める近赤外領域(0.75-1.4 µm)の効果に対する検討が不十分であったため、追加の観測を行うと同時に、被服表面における反射スペクトル(0.35-1.05 µm)の分析を行った。2011年夏以降複数の観測事例を蓄積してきているが、たとえば濃緑(高温)と赤(低温)との間には5〜10℃の温度差(夏季日中の日照条件下)が生じる。可視領域のみならず近赤外領域までを含めた色彩別の反射率は、濃緑87%、黒86%、青84%、緑84%、紫82%、赤78%、灰75%、黄70%、白63%となっており、従前可視領域の反射率だけを比較した時よりも、表面温度の大小との対応関係が明瞭となった。反射率25%の違いは約15℃の温度差をもたらしている。ほぼ無風の条件下では黒や緑で50℃を超える事例(2013年9月など)も観測されており、夏季の暑熱リスク軽減の視点から、被服の色彩選択も重要な気候変動適応策の一つといえる。

著者関連情報
© 2020 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top