日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 715
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発表要旨
2019年台風19号による都幾川流域浸水域の土地条件と治水対策
*青山 雅史
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抄録

1.はじめに

2019年10月台風19号の襲来により東日本の多くの河川において堤防の決壊,越水が発生して,甚大な浸水被害が発生した.荒川水系の都幾川や越辺川においても複数地点において河川堤防が決壊して広域的な浸水被害が発生した.本発表では,都幾川流域で発生した浸水状況とその地形条件,ハザードマップとの関係,それら浸水域の過去の浸水履歴,破堤地点と河川(堤防)整備の歴史的経緯との関係などについて報告する.

2.調査方法

現地踏査と国土地理院撮影空中写真の判読から浸水域を明らかにし,浸水痕跡から浸水深を推定した.それらのデータと国土地理院治水地形分類図とをGIS上で重ね合わせ,東松山市発行のハザードマップと照合することで,浸水域の地形条件や,ハザードマップの想定浸水域・浸水深と被害実態との関係などを検討した.それら浸水域の過去の浸水履歴について,文献,現地住民への聞き取り調査や過去に撮影された空中写真などから検討した.また,堤防決壊地点周辺の堤防整備状況の時系列変化について,文献,行政資料,空中写真やGoogle Earth画像などから検討した.

3.結果

都幾川流域においては,中流域右岸側の神戸地区と,下流域の越辺川合流点付近右岸側(早俣地区)の2地点において堤防の決壊が生じた。右岸側ではそれらのほかにも,神戸から葛袋にかけて断続的に複数の区間において堤防からの越水や無堤区間からの溢水,霞堤(旧堤防)の欠損などが生じた.都幾川、越辺川、九十九川合流地点周辺では、越辺川(九十九川)左岸堤防の決壊も生じた。この3河川合流地点周辺では堤防からの越水が広域的に生じた。それらにより,本地域では広域的な浸水被害が生じた.

浸水域はほぼ低地に限定され,台地(段丘面)上における浸水被害はみられなかった.浸水域の多くは氾濫平野上の農地(水田)であり,自然堤防上の集落も浸水した。氾濫平野上に2000年代以降に造成された盛土地の一部(大型商業施設や宅地)も浸水した.台風19号浸水域はハザードマップの想定浸水域内にほぼ収まり,想定浸水深を超えた地点もみられなかった.

本地域においては,1910(明治43)年水害や1947(昭和22)年カスリーン台風水害時に多数の地点において破堤が生じ,広域的な浸水被害が生じていた.とくに都幾川、越辺川、九十九川合流地点周辺では、近年においても1982(昭和57)年9月降雨,1991(平成3)年9月降雨など,これまでもたびたび浸水被害が生じている.神戸地区の無堤(霞堤)区間周辺では,近年も数年から十数年に一度程度の頻度で農地の浸水が生じていたようであり,1999(平成11)年8月熱帯低気圧の豪雨ではこの地区の農地の広範囲が浸水した.

河川合流点付近は洪水発生リスクが高く,上述のように本地域もこれまでたびたび浸水被害を被ってきた地域であることから,都幾川、越辺川、九十九川合流地点付近の多くの区間では1960年代から70年代にかけて現在の堤防と同規模の堤防が整備され,2000年代以降も水門の設置や堤防強化などの治水対策が進行しつつあった.しかし,2019年台風19号では,わずかな区間に残存していた「弱小堤」(周囲より堤防幅が狭く堤防高が低い堤防)において破堤が生じた(図1).2015年9月関東・東北豪雨においては,鬼怒川の河畔砂丘が人為的に削剥された区間で溢水が生じている.これらのような近年の水害事例を踏まえ,流域の地形条件,土地利用や堤防等河川構造物の整備状況などを多角的に点検(検討)して河川管理状況や洪水リスクを評価し,必要な対応策を速やかに講じていく必要があろう.

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