日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P177
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発表要旨
北半球の1月と7月における前線帯の南北変動
*高橋 信人
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キーワード: 前線帯, JRA-55, 相当温位, 北半球
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抄録

1.研究目的

 特定地域において気候変動の要因を探るためには、周辺大気場の変化をみることに加え、その変化が広範な大規模循環場の変動の中でどのように位置づけられるかを明らかにしていく必要がある。本研究は、地上の前線帯(一定期間に前線頻度が高い領域)が複雑な大気場の特徴を表す比較的単純な指標であると考え、その変動に注目した。そして、JRA-55再解析値(気象庁)から前線位置を特定する手法によって作成した、1958年以降の北半球の前線データを用い、北半球における前線帯の南北変動(年々変動)を統計的に調査し、長期変化傾向と地域間の変動の関連性・連動性を明らかにすることを目指した。

2.データと方法

 JRA-55再解析から算出した850hPa面における相当温位(θe)(気温と相対湿度のデータ、6時間ごと、1.25度グリッド)に基づき、dθe≧0.55K/(100km)かつTFP(θe))≧0.91K/(100km)2を満たすグリッドに前線があるものと判断した。このデータに空間フィルタ(前線の空間的連続性の確認、500hPa面の傾圧帯および気圧の谷側に存在するなど)を施した上で、北半球の北緯10〜80度の領域における前線位置の情報を集約し、1958〜2018年の各年の前線頻度分布(今回は1月と7月のみ)を求めた。なお、これらの各種条件や空間フィルタは、気象庁地上天気図に描かれた前線位置との比較に基づいて設定した。

このデータからまず、北半球の平均的な前線頻度分布の特徴を確認した。その上で、経線10度ごとに各年の前線頻度の極大が現れる緯度(前線帯の位置)を求め、前線帯の南北変動について、年々変動(地域間の変動の関連性)と1958年からの長期変化傾向(ケンドールの順位相関に基づくトレンド指数)を調べた。

3.結果

1) 北半球前線頻度分布から読み取れる特徴(図1)

 1月および7月において、中緯度域に太平洋寒帯前線帯と大西洋寒帯前線帯に対応する高頻度域(極大は15%以上)が認められる。また、7月には北緯60度以北に極前線帯に対応する高頻度域(極大は10%以上)も認められる。

2) 前線帯の南北変動(年々の値に基づく地域間の変動の関連性)

 各経線(10度ごと)における前線頻度の南北位置における極大に注目して、年々値で相関関係を求めると、基本的には近接する領域(経線)間で高い正の相関を示す。

1月は、大西洋寒帯前線帯の東側(60°W-20°W)と太平洋寒帯前線帯の中央(140°E-170°W)のそれぞれ領域に含まれる経線間で相関係数は正で値も高い(すなわち年々値において連動している)。離れた領域の関係性については、大西洋寒帯前線帯の東側の南北変動において、太平洋寒帯前線帯の西側(90°E-110°E)および東側(170°W-140°W)の領域の南北変動と統計的に有意な正の相関(5%)が認められた。 

7月も、太平洋寒帯前線帯については特に120°E-170°Eで互いに高い正の相関(高い連動性)を示す。離れた領域の関係性については、例えば太平洋寒帯前線帯の130°Eと極前線帯の100°Wにおいて高い負の相関を示すなど、局所的に寒帯前線帯と極前線帯の南北変動における統計的な関連性が認められた。

3) 前線帯の南北変動(長期変化傾向)

 各経線におけるトレンド指数を求めると、1月は170°E(太平洋寒帯前線帯の中央)で負のトレンド(南下傾向)、30°W(大西洋寒帯前線帯の東部)で局所的に正のトレンド(北上傾向)を示した(有意水準5%を満たす)。一方、7月は110°Eや150°W(太平洋寒帯前線帯の西側と東側)で局所的に正のトレンド(北上傾向)を示した。

 今回明らかになった前線帯の南北変動における地域間の関連性については、テレコネクション等との関係とともに整理する必要がある。また、長期トレンドについて、他の時期の傾向についても明らかにした上で、実際に起こっている現象を明確にしていく必要がある。

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