日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P108
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発表要旨
代官山の集合住宅にみる言語景観の特性
―オシャレな地域,代官山の住まいの変化―
*松井 茜
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抄録

1.はじめに

 1970年代から代官山はファッション雑誌において原宿,六本木に次ぐファッションタウンとして取り上げられるようになった(成瀬 1993).「代官山」の裏通りや小路には多くの飲食店やアパレル店が集積し,代官山はオシャレな地域として知名度を高めていく. 本研究では,そうした地域の質的変化が与えた居住環境という物理的環境への影響を言語景観からみることを目的とする.マンション名やアパート名,居住専用建物に「名前」が付けられるのは日本の特徴の1つである.名称に含まれる情報(言語・地名・表記)を収集し,建物の建造年と共に考察することで,住まいとしての代官山の特徴が浮かび上がってくる.なお,「代官山」は通常,行政区域の渋谷区代官山町を指すが,集合住宅名称においては,隣接する猿楽町や恵比寿駅方面においても「代官山」が多く確認される.本研究では「代官山」という地名が行政区域としての本来の地名の持つ意味を超えて集合住宅の名称に利用されている事を踏まえ,代官山地域の質的変化が与えた居住環境への影響を名称が含む情報(言語・地名・表記)と建物の建造年を共に考察することで,住まいとしての代官山に見られる言語景観を明らかにする事を目的としている.

2.調査方法

本研究では,代官山町,猿楽町,恵比寿西一丁目,恵比寿西二丁目を調査範囲とし,対象地域内の集合住宅(マンション・アパート・シェアハウス)の名称と建築年の調査を行った.集合住宅名称は,株式会社ゼンリンの住宅地図「渋谷区」を参照し,建築年は建物内に竣工年の表記がある物はそれを参考に,ない物については複数の不動産会社ホームページを参照した.

3.代官山における集合住宅名称の言語景観

 恵比寿西一丁目,二丁目に位置する集合住宅170棟のうち「代官山」を含む集合住宅名は67件(39%),「恵比寿」を含むものは38件(22%),いずれも含まないものは65件(38%)であった.

建築年代別の「代官山」を含む集合住宅名称の割合の推移を見てみると,0%(1960-64年),11.1%(1965-69年),18.2%(1970-74年),40%(1975-79年),22.7%(1980-84年),38.5%(1985-89年),71.5%(1990-94年),52.9%(1995-99年),52.9%(2000-04年),50%(2005-09年),61.5%(2010-14年),57.1%(2015-19年)であり1990年代の建造物に多いことが分かる.また,恵比寿西地区では1960年代後半から「代官山」という地名が集合住宅名称に積極的に利用されてきた傾向を示す.

集合住宅名称を言語別に分けると,日本語,英語,フランス語,ドイツ語,ギリシャ語,イタリア語,デンマーク語,ラテン語,ポルトガル語そして複数の言語を組み合わせた造語の表記が見られた.同様に年代別に見ると,1960年代後半までの建築には日本語・英語表記のみであったが1970年代前半からは他言語による表記も出現し(フランス語・ドイツ語),以後は集合住宅名称の欧米言語化が進んだといえる.今後は言語景観という視覚的な側面から,代官山地区の集合住宅名称のデザイン性について研究を進めていく.

【参考文献】

成瀬厚1993.商品としての街,代官山.人文地理, 45(6): 60-75.

謝辞 本研究は(公)DNP文化振興財団の「2019年度グラフィック文化に関する 学術 研究 助成」の助成を受けて実施したものです.記して感謝を申し上げます.

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