主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2020年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2020/03/27 - 2020/03/29
Ⅰ はじめに
日本では高度成長期に全国で水質汚濁が問題となったが、法整備や社会全体の環境意識高揚などもあり、急速に水質が改善されてきた。しかし、現在も東京への一極集中だけでなく、地方でも都市化が進み、郊外などで水質汚濁が激しい地域も残っている。かつての点源汚染が面源汚染となって広がり、山村地域での排水処理施設の問題などから、大河川流域では下流部よりも上流部に汚染地域が目立つ流域が多い。
行政によって1971年から継続されてきた「公共用水域の水環境調査」結果や、市民団体を中心に2004年に始まった「身近な水環境の全国一斉調査」といった全国規模の観測記録を中心に、日本の河川水質の長期変動について検討した。
Ⅱ 研究方法
国立環境研究所のデータベース「公共用水域の水質調査結果」を用いて1971年以降の水質変化を整理し、「身近な水環境の全国一斉調査」については、2004年〜2018年のCODの調査結果を整理して長期的な変化について考察した。また、1971年以前に関しては、様々な研究成果から抽出したデータを整理し、2018年以降については、研究室で行ってきた全国規模の観測記録を用いた。
Ⅲ 結果と考察
1.公共用水域の水質調査結果
1971年に約1,000点だった観測地点が、15年後の1986年には5,000点を超え、その後6,000点弱の地点での観測が継続されてきた。BOD値の経年変化では、当初3以上が半数を占めていた(1971年)が、1976年には2以下が半数となり、最近では、2以下が約8割を占めている(2018年)。1〜4の地点数はあまり変わらないが4以上の値が減少し、1以下が全体の約半数に増えている。
2.身近な水環境の全国一斉調査
調査が始まった2004年は約2,500地点だったが、2005年には約5,000地点となり、その後6,000地点前後で推移するものの、2018年には約7,000地点となった。COD4以下が約半数となっている。
3.1971年以前の水質
先駆的な小林(1961)による研究成果などはあるものの、系統的に観測された水質データは入手しづらく、研究論文や、いくつかの報告書などからの抜粋により整理したが、十分な水質復元はできず、過去の水質を明らかにすることの困難さが浮き彫りとなった。
4.最近の水質
2017年〜2019年にかけて、毎年全国2000箇所以上で調査したデータを整理し、近年の河川水質の現状を明確にした。調査地点に偏りはあるものの、近年の水質の問題点が明らかになった。
Ⅳ おわりに
2種類の全国規模の長期的な観測結果に加えて、1971以前のデータを収集整理して過去の水質の復元を試みた。最近の水質に関しても、独自に全国規模で数千点の観測を行い、一般水質のデータを用いて現況を明らかにすることができたが、いずれもまだ十分とは言えない。今後も同様のデータを継続して収集しながら精度を上げていきたい。
参 考 文 献
小林 純(1961):日本の河川の平均水質とその特徴に関する研究.農学研究,48-2,63-106.
小寺浩二ほか(2019):全国規模の観測記録から見た 日本の 河川の 水質 変化.日本地理学会講演要旨集.