日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 408
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発表要旨
地方都市における地元志向型就業者の意識と居住地選択
―山形県東根市の製造業従事者を対象として―
*西村 麻実箸本 健二
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抄録

1.研究の目的と背景

80年代以降、農村工業化等を通じて地方圏に進出した製造業は、域内に若年雇用を創出し人口増加や経済発展に貢献した。青木(1995)らは、こうしたローカルな地域スケールでの製造業従事者の動向を検討してきた。一方、円高やアジアシフトを経て地方圏の製造業の地盤沈下が進むと、多くの製造業集積地域で若年層の域外流出が進み、地方の拠点都市が担う「人口のダム」機能の弱体化が指摘されるようになった(梶田,2016)。しかし地方圏の若年層の中には地元志向が強い層も一定数存在し、雇用の改善を通じてこうした層の流出を防ぐことが急務である。そこで本研究では、地方の製造業で就業する地元出身の従業者に注目し、就業地や居住地選択の意思決定過程の解明を通じて、地元志向を持つ就業者層に対応した「人口のダム」のあり方を考察したい。

2.調査の方法

本研究では、製造業が卓越し、人口の社会増を維持する山形県東根市を対象地域とした。その上でまず、市内の製造業(雇用者)への聞き取り調査を実施した後、協力を得られた9社の従業者へのアンケート調査を実施した。対象は、地元志向の就業意識が強いと想定される大卒未満(高校、高専、短大・専門学校が最終学歴)の就業者とし、就業者の個人属性のほか、就業地選択における意思決定過程と居住地移動を主たる質問項目とした。調査票は計673通配布し、高校卒業時に山形県内に居住していた対象者268名から有効回答を得た。

3.分析結果

(1)就業理由

就業理由を1〜9までの選択肢の複数回答でたずねた。その結果、回答者の性別・転職経験などの属性差を超えて、実家からの通勤利便性や県内通勤など地理的条件が強く意識されている。

(2)居住地移動

回答者の多くは東根市を含む村山地域の出身であり、地理的移動の範囲は狭い。しかし北部の市町村から、東根市や、それより南の天童市、山形市への移動が顕著である。

(3)今後の希望

今後も東根市での継続勤務を希望するかに関しては、継続を希望する人が224名、希望しない人は35名だった。東根市以外を希望する35名中14名が通勤面での不便さを理由にしており、ここでも就業地選択に際して通勤利便性の重視が確認された。

4.おわりに

調査対象地域では「実家から通勤が可能であること」が就業地選択において最も重視されている。このことは、進学に伴う他出を経験しない層について地元志向が高いことを示唆している。また、多くの企業サイドも「自宅通勤が可能であること」を採用条件としているため、就職時には東根市の通勤圏内にある実家から通勤し、ライフステージの変化とともに東根市近郊に持家を購入し、場合によっては親を呼び寄せるという選択も取られる。東根市は、山形県村山地域における交通体系の結節点という地理的条件ゆえに、物流機能を評価する製造業の雇用機会に加え、地元志向の強い就業者を村山地域全域から集めることで、「人口のダム」機能を果たしていると考えられる。

文献

青木英一 1995.工業地域における就業構造の変化 : 四日市市を事例として.経済地理学年報 41(1):1-19

梶田真 2016.県庁所在都市は「ダム機能」を果たすことができるのか? : 松江市の事例分析を通じて.地学雑誌 125(4):627-645

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