日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P202
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発表要旨
ブータンヒマラヤ南西山麓の活断層の特徴
熊原 康博*中田 高Namgay KarmaDrukpa Dowchu
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抄録

はじめに

 ヒマラヤ山脈東部に位置するブータンでは,プレート境界にもかかわらず,活断層の調査はほとんど進んでいない。最近,Theo Berthet et al. (2014),Hetényi, G.et al. (2016) Le Roux‐Mallouf et al. (2016)らがブータン中南部のゲレフ地域で活断層の最新活動時期や断層変位地形について調査をおこなっているものの,その他の地域ではほとんど明らかになっていない。

 本研究では,ブータンの活断層分布図を作成し,さらにブータン南西部のヒマラヤ山麓の活断層の地形調査を実施した。調査範囲は,Samtse郡のSamtseからブータン南西部国境を限るJaldakha川の東岸に位置するSipsuに至る地域である。

 調査に先立って,ブータン政府National Land Commissionが所有する空中写真を活用して,アナグリフおよび等高線図を作成した。また,現地ではドローンによる空撮を行い,これらをもとに活断層の詳細な位置・形状を把握し,その確認のための現地調査を実施した。本地域では,ヒマラヤの南縁に分布するSiwalik層が分布しておらず,Lower Himalayaを構成する地層が山麓を構成し,直接ブラマプトラ平原と接する。このため,Himalayan Frontal Thrust(HFT)に関連する活断層の発達は不明瞭であり,Main Boundary Thrust(MBT)に関連する活断層が顕著な断層変位地形を伴っている。

トレンチ調査

 写真判読で得られた活断層の存在を確認するため,Samtseの西約10kmに位置するNorgugangでMBTに関連する活断層のトレンチ掘削調査を実施した。ここでは,活断層がDaina川の河岸段丘を変位させ顕著な低断層崖が発達している。低断層崖に直交するように掘削したトレンチは,深さ最大約6m,長さ約15mである。トレンチ壁面から,砂礫層を変形させる,約20°北に傾斜する断層面が認められた。断層面の上盤側では,段丘を構成する砂礫層(直径数10cmの巨礫から粗粒の砂層)が撓曲し,断層に接する部分ではオーバー・ターンするように大きく変形している。下盤側ではほぼ水平な砂礫層が堆積しており,典型的な逆断層の露頭を呈する。しかしながら,炭化物や腐植土など,過去の断層変位時期を推定するために必要な年代測定試料を得ることができなかった。

露頭調査

 一方,Samtseの市街地に近い断層崖基部の土取り場で,活断層露頭を発見した。ここでは,断層面は約25度北に傾斜しており,断層の上盤で扇状地性礫層が断層崖に平行して傾斜し,断層崖の末端部では大きく褶曲している状態が観察された。また,地層中の同一の細粒層から炭化物を4点採取することができた。いずれも8000-8250yrBPの年代値を示した。

 扇状地面上の垂直変位量は約26mであり,断層面の傾斜を考慮すると断層面に沿う総変位量は約62mとなる。単純に総変位量を8000年で除すと,スリップレートは~13mm/yrとなる。この扇状地面の年代は8000年前よりも若いので,スリップレートはさらに大きくなる。ブータン中南部の段丘面の変位と年代から求められたスリップレート(~20mm/yr, Theo Berthet et al. (2014))が得られており、オーダーとしては近似する。

文献

Hetényi, G.et al. (2016), Geophys. Res. Lett., 43, 10695–10702

Le Roux‐Mallouf et al. (2016) J. Geophys. Res. Solid Earth, 121, 7271–7283

Theo Berthet et al. (2014) Geology, 42,427-430

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