日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 814
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発表要旨
草津白根山周辺地域の水環境に関する研究(6)
*猪狩 彬寛小寺 浩二浅見 和希
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抄録

Ⅰ はじめに

 白砂川・万座川流域には温泉排水・鉱山排水の影響を受け、酸性・高EC値の水質を示す。また、発電利用のための導水や貯水も広く行われており、こうした人為的影響による急激な水質の変化が著しく見られている(猪狩ほか 2019)。23回におよぶ水環境調査と成分分析の結果から、草津白根山周辺水環境の水質特性・形成要因を明らかにするとともに、地質学を合わせた他火山との比較の中で、当火山の水文地理学的特徴を検討した。

Ⅱ 研究方法

 2017年5月から2019年10月にかけて23回の現地調査を行った。調査地点は山体の東側と南側を流れる河川を中心に、約45地点ほどである。現地では気温、水温、pH、RpH、EC(電気伝導度)、流量の測定を実施した。2018年2月6日に草津町の協力の下、今回噴火が発生した本白根山東麓の火山灰の分布域・降灰量の調査、サンプリングを行った。河川水以外にも、降水や積雪、温泉水の現地調査とサンプリングを行っている。

Ⅲ 結果と考察

 1.万座川流域

 西麓に位置する万座川流域では、硫酸の割合が高い地下水の流入の影響を受けた河川が多いが、噴気口群に近い渓流では塩化物が付与された水質組成が見られた。同一山体であっても地下水の湧出する地点や標高で、組成が変わることは、地下での物質供給のプロセスに差異があることを示している。

 2.湯川流域

 山体東側の湯川流域では硫酸カルシウム型に塩化物が付加された水質組成となる。地下熱水系の中で塩化物の湧出過程が東麓と西麓で異なっている。湯川流域内の強酸性河川(湯川・谷沢川・大沢川)は中和処理された後、導水管を通り白砂川中流や、白砂川・吾妻川合流点へと流下するが、その影響は吾妻川本流にも強く出ている。白砂川中流域にも小河川がいくつか存在するが、草津温泉から離れた流域であるほど、火山性成分が薄まり、重炭酸カルシウム型の水質へと遷移していく。白砂川上流部の小河川でも同様の現象が見られ、草津白根山の存在する方角とは異なる、北側から流下する河川は重炭酸カルシウム型を、草津白根山が存在する西側から流下する河川は硫酸カルシウム型に近い水質組成を示した。

Ⅳ おわりに

 強酸性排水の影響が出ている河川だけでなく、火口から離れている渓流水や湖沼、降水も扱うことで、地質分布や人為的影響(農業による施肥、生活雑排水の影響)による水質形成を明らかにした。また、噴火による環境水への影響を適切に評価するためには、特に平常時の火山体周辺の水環境の状況を把握することが重要であり、今後も継続的に調査を続ける必要がある。水質組成比と最終火山活動との関係性に関する検討も、さらに議論を深めていきたい。

参 考 文 献

猪狩彬寛, 小寺浩二, 浅見和希(2019): 草津白根山周辺地域の水環境に関する研究(5), 2019年度日本地理学会秋季学術大会発表要旨集.

Francisco J. Alcalá, Emilio Custodio (2008):Using the Cl/Br ratio as a tracer to identify the origin of salinity in aquifers in Spain and Portugal. Journal of Hydrology, 359(1-2), 189-207.

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