日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S306
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発表要旨
人口減少局面の地域格差と空間計画:
現代のプランニングは地域格差をどう考えているのか?
*瀬田 史彦
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抄録

1.研究の背景と目的

 産業革命に伴う人口の急激な増加と都市化の過程で生まれた近代的な空間計画(国土・地域・都市計画)では、多くの人々が都市に移動する過程で生じる様々な経済的・社会的な格差の是正・緩和が、主要な目的の一つとして位置づけられていた。日本においては、戦後に国土計画が策定された頃から、人口が増加する大都市圏と停滞または減少する地方圏との格差が主要な政策課題として挙げられ、その是正・緩和が求められてきた。都市圏や1都市内においても、人口が集中し経済活動が活発化する中心都市や都市内の交通至便な地区と、人口が流出する周辺市町村や縁辺部との格差が問題とされ、都道府県・市町村の総合計画やマスタープランでは、地域区分をした上で地域格差に配慮し、周辺・縁辺となる地域・地区への対応を行ってきた。

 しかし今、日本全体で人口減少局面に突入し、ほとんどの自治体で将来人口が減少すると推計される状況の中、空間計画における地域格差是正の位置づけも変容を余儀なくされている。国土レベルでは、日本の人口減少や経済縮小に加えて、経済のグローバル化や周辺国の経済的台頭を背景に、これまで抑制の対象であった東京圏の位置づけが大きく変化しつつある。地域・都市のレベルでは、主に人口減少に伴う都市サービス需要の減少、・人口密度低下に伴う非効率化に対応した政策や計画制度が創設されるようになり、地域・地区間の格差を是正・緩和するのではなく、むしろある程度の格差を前提とした政策が進められるようになっている。

 本研究では、日本の空間計画における地域格差とその是正・緩和の方向性がどのように変容しているのか、人口減少への対応を主な目的とする代表的な空間計画・制度を分析し、それらの内容を総合的に解釈することによって、人口減少局面の地域格差とその是正の本質を把握することを目的とする。

2.対象とする計画・制度

(1)国土形成計画(全国計画・広域地方計画):2005年に改正された国土形成計画法に基づく国土および圏域(複数都道府県)レベルの計画であり、前身の全国総合開発計画から、1962年以来概ね7〜8年ごとに計画が策定されている。直近の2015〜16年の第二次国土形成計画は、人口減少を強く意識した計画となっている。

(2)定住自立圏構想:人口減少が進行する地方圏の市町村において各種の生活サービスの維持を行うために、総務省が新たな広域連携制度を2008年に制度化し推進している。同構想は、一定の条件から中心市と近隣市町村を定義し、前者に高度な都市機能を集約し、後者からのアクセスを確保することで都市サービスの維持を目指している。

(3)立地適正化計画:都市機能と市街地の集約・コンパクト化を目的に、都市再生特別措置法に基づいて2014年に制度化され、国土交通省が都市計画区域での策定を推進している。主な内容として、医療・福祉・商業施設などの立地を誘導すべきエリアを定める都市機能誘導区域と、その区域に隣接して、市街地を誘導し将来にわたって維持すべきエリアを定める居住誘導区域の指定がある。

(4)公共施設再編にかかる計画:総務省が、公共施設やインフラの長寿命化と適正配置を促すため、公共施設等総合管理計画の策定を2014年に全自治体に要請しているが、それに先んじて2008年頃から、FM(ファシリティマネジメント)という名称などで公共施設を具体的に再編(統廃合)する計画づくりを進める自治体がある。

3.主な研究結果と考察(抄)

 国土・圏域レベルの計画では、昔に比べて弱まりつつも引き続き地域格差是正の意図がみられる一方で、都市圏や一都市の単位では地域格差が是認され、むしろ格差を前提に政策やプランニングが進められる傾向にある。これらの政策の影響が出る数十年後は、都市圏や都市内といったよりミクロレベルにおける地域格差が拡大し、かつそれが是認されると考えられる。

※本研究はJSPS科研費(16H03524)「地理的多様性と地域格差問題の再定義に関する研究」の助成を受けた。

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