日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 134
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発表要旨
震災デジタルアーカイブを活用した防災教育カリキュラム開発
―2014年神城断層地震を事例に―
*小保田 春加
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抄録

1.はじめに

「災害アーカイブ」とは,災害における知見や教訓を含んだ様々な災害関連資料を収集し,保存・活用するものである.更に,災害関連資料をデジタル媒体で将来に残していく,「デジタルアーカイブ」が2011年東日本大震災以降主流になっている(今村,2016). 東日本大震災以降多くの被災地でデジタルアーカイブが立ち上がったが,災害関連資料を残すこと以外の目的がなく、アーカイブを更新し,活用していくことが考慮されていないことが多い。したがって今後は,どのように維持・管理していくかが重要な課題である.本研究では,2014年神城断層地震の震災デジタルアーカイブを作成する中で、生涯学習や防災教育での活用を踏まえ構築した。さらにこれを活用した防災教育カリキュラム開発を行ない,学校や地域の住民がアーカイブを利活用しながら主体的に管理・更新していける仕組みを作り,今後地域に根付くアーカイブの構築を目的としている.

2.神城断層地震震災アーカイブの構築

神城断層地震デジタルアーカイブは,小谷村・白馬村・信州大学の共同研究として2017年度から始まり,神城断層地震4周年の前日にあたる2018年11月21日17時より公開を開始している.アーカイブでは、発災時の写真・動画や,被災者へのインタビュー,防災マップなど,様々な資料が収録されており,2014年地震の記録や記憶だけでなく,地震後に生じた課題・教訓も含めて復旧期,復興期も含めデジタルデータ化し,インターネットで公開しながら保存・活用していく仕組みである.さらに動画コンテンツは利活用を踏まえて編集を行なった。「子育て世代」「避難所・仮設住宅経験者」「学校関係者」の対象別インタビューを実施し、デジタルアーカイブと震災遺構(地表地震断層)を関連させる取り組みも行なっている。詳しくは神城断層地震震災デジタルアーカイブHP(http://kamishiro.shinshu-bousai.jp/)をご覧いただきたい。

3.神城断層地震震災アーカイブを活用した授業実践

今年度は白馬村立白馬中学校1学年と小谷村立小谷小学校5学年で授業実践を行なった。いずれも単元の導入としてアーカイブを活用し、当時の写真や体験談を観ることで神城断層地震を学ぶことに関心を抱き、そこから児童・生徒が調べたいことを決定する。実際に子どもたちがフィールドワークを行ない自身が見たもの、聞いたものを大切にした活動になっている。白馬中学校は①インタビュー班②写真班③ハザードマップ班にわかれて調べ学習を行ない、学習の成果を地域の方に発表した。小谷小学校は地域に残る地震の経験に、豪雪地域である特色を加えて「大雪時の発災」を想定し単元を展開した。アーカイブには子どもたちの地元が被災した様子が収録されており、学習することが子どもたちの中では身近な社会事象になり、臨場感を得られるため活発な活動が見られた。本アーカイブでははじめての授業での活用であり、試行錯誤が必要であるが、第一歩としてアーカイブを使ってくれた子どもたちの意見を十分に参考にし、今後も学校教育でのアーカイブ活用に生かしていかねばならない。そのためにはアーカイブを地域により周知させ、2校のような防災教育の授業実践を掲載し、防災教育に関心がない子どもたちや先生方、地域の方でも使いやすいような整備を進める必要がある。これは今後の課題とする。

引用文献:今村文彦(2016)情報管理vol. 59, no. 2, p. 123-127

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