主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2020年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2020/03/27 - 2020/03/29
1 はじめに
全国的な「平成の大合併」の進展により,基礎自治体としての市町村の再編が一定の終結をみてから,およそ15年が経過した.この間,市町村行政に係る組織・施設等の再編が進展したことに加えて,合併市町村では,関連するさまざまな公共的団体も統合がなされるなど,それらの機能や区域には大きな変化が生じてきた.さらに,少子高齢化や人口減少の進展などにより,合併の有無にかかわらず,地方圏では学区の統廃合や住民を基盤とする各種団体の再編も進み,基礎自治体レベルでの行政や公共的団体をめぐる機能と区域,空間スケールの関係は大きく変化してきた.結果として,公的各種機能と区域の対応関係は地域によって大きく異なるものとなってきている.
そのような状況のなかで,今後「行政資源」はいっそう縮小すると予想され,行政や公共的団体に係る地域システムのあり方を検討することは喫緊の課題であると考えられる.その考察のために,まずこれらの機能と区域の関係を把握し,またその事例を蓄積しておく必要性が高いといえよう.
本報告では,上記の作業の一環として,福岡県田川地域における,基礎自治体(市町村)レベルでの行政や住民自治組織をはじめとする公共的団体の機能と区域の関係を明らかにすることを目的とする.
2 研究対象地域の概要
福岡県田川地域は,田川市と田川郡6町1村で構成され,面積は363.73km2で,中心都市の田川市は福岡市中心部から約40km,北九州市中心部から約30㎞の位置にある.明治期以後,炭鉱とともに大きく成長を遂げてきたが,第2次世界大戦後には炭鉱閉山が相次ぎ,人口が半減することとなった.2019年9月末時点での人口は123,879(住民基本台帳人口)となっている.
3 行政・公共的団体の機能と区域の関係
行政や公共的団体の機能と区域の関係については,まず各市町村の例規集により,条例や規則上の規定内容を確認したうえで,各市町村役場の企画ないしは総務部門などの担当者に聞き取り調査を実施した.以下では,一部の市町村の事例を取り上げていく.
(1)田川市
田川市における行政関連の各種機能・区域としては,まず,市域を超えるものとして,田川地区消防組合に代表される広域行政組織があり,福岡県自治振興組合のような県域での組織も存在する.これらは田川地域内の他町村にも概ね共通するものである.一方,市域の下位の単位としては,合併前の旧3町村の枠組みはほぼ見られず,100程度の行政区との中間に,8中学校区や消防団18分団といったものがある.また,行政区の校区区長会が9小学校区単位で編成され,各行政区の下には複数の組が置かれている.
一方,公共的団体としては,代表的なものとして,コミュニティ組織としての「校区活性化協議会」が8中学校区単位で設置されており,その部会の下に行政区単位を基礎として作られる老人会などの各種団体が位置づけられている.
行政・公共的団体ともにその他の多くの機能は市域単位となっており,狭域のまま市域が変化してこなかった田川市では,市内での各種機能は3〜5層の構造と捉えられる.ただし,2022年度から中学校区を旧3町村単位に再編する計画が進められていることから,これらの構造にも大きな変化が生じる可能性が考えられる.
(2)糸田町
「明治の大合併」により成立した区域を維持してきた糸田町では,面積・人口の規模の観点から,町域を分割する枠組みは消防団3分団などに限られている.住民組織等は21行政区を基礎として設置され,その下の組なども考慮すると,町域での各種機能は2〜3層の構造となっている.
(3)福智町
田川地域で唯一「平成の大合併」を経験した福智町では,支所,保健センター,中学校などが合併前の旧町単位で設置されており,合併から15年程度が経過した現在も,町域の下位の単位として旧3町の枠組みが広く残存している.これらと81行政区との間に,5小学校区や消防団14分団といったものがある.各種公共的団体にも旧3町の単位で部会や支部を持つものがあり,町内における各種機能は3〜5層の構造と捉えられる.ただし,福智町でも公共施設の再編などが検討されており,今後このような構造が変化する可能性がある.また,「昭和の大合併」を経験していない狭域の3町による合併であったことから,その階層は一般的な町村と比較すると単純なものであった可能性もある.
本研究は,科学研究費補助金基盤研究(C)(課題番号:19K01175)および福岡県立大学附属研究所平成31年度研究奨励交付金事業「福岡県における市民セクターの研究:田川地域を中心に」による成果である.