日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P189
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発表要旨
上越地区,雁平地すべり地形の表層変化
*井上 穣奈良間 千之王 純祥瀧田 栄次
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抄録

1.はじめに

 地すべり地形の表層に見られる様々な微地形は,内部構造や滑動形態を反映した結果である(小原ら,2006).地すべり地形にみられる微地形を類型化して,それぞれの発達過程を考察した報告もある(木全,2003).この報告では過去に動いた地すべり地形を対象としており,現在流動している地すべり地形の表層の時系列変化を高時間分解能で調査した研究は少ない.そこで,本研究では,新潟県高田平野の東方の東頸城丘陵縁辺部に位置する雁平地すべり地形を対象に,定期的なUAV空撮および現地踏査をおこない,表層の地形変化と地すべりの関係を考察した.

2.調査地概要

 新潟県上越市の雁平地すべり地区は,滑動が確認された順序よりⅠ,Ⅱ,Ⅲの区域に分けられ,いくつかの地すべりの集合体からなる.1961年に地すべり指定地として管理されて以来,調査と地すべり防止工事がおこなわれてきた.本研究では,Ⅲ区域の中でこれまでに防止工事がおこなわれていない地区の地すべり地形を対象とした.この地区の地すべりは2015年以降の流動が確認されており,株式会社キタックの移動観測杭の調査によると,年間最大で約38m水平移動している.

3.研究方法

 2019年8月19日,9月13日,10月28日,12月10日,12月24日,2020年1月17日に現地調査をおこなった.地すべり地形の地表面流動を観測するため,GEM-3(イネーブラー)を用いて移動杭と地表面マーカーのGNSS測量を実施した.立体的な地形の変動を測るため,UAV空撮による連続画像からSfMソフトを用いて3次元点群データを作成した.

 また,地すべり地形の地表変動を抽出するため,差分干渉SAR解析をおこなった.解析はALOS-2/PALSAR-2データのうちアセンディング軌道の2015年6月7日,7月5日,11月8日,2019年5月19日,11月3日の5画像3ペア,ALOS/PALSARデータのうちアセンディング軌道の2010年4月8日,5月24日,7月9日,8月24日の4画像の2ペアの解析をおこなった.

4.地表面流動

 2015年の約1か月間ペアの差分干渉SAR解析の結果,雁平地区内に地表面変動を示す変動縞を確認した.2015年の約4カ月間ペア,約5カ月間ペア,2019年約6カ月間ペアでは,同区域内で干渉しない範囲が存在し,この区域では位相の範囲に収まらないほど地表面変動があったと推定される.これらの結果から,現在滑動する地すべり地形は,標高150m〜280m,長さ800m,幅170mであることを確認した.2010年の約4カ月間ペアの差分干渉SAR解析の結果,同範囲でわずかに地表面変動が確認され,この特定された地すべり地形の地表変動は2010年よりも増大しているといえる.特定した地すべり地形周辺に4本の移動杭と19個のマーカーを設置し,GNSS測量で表面の流動量を計測した.その結果,9月13日〜1月17日の127日間で最大4.5mの水平移動が確認され,現在もこの地すべり地形は活発に滑動していることがわかった.

5.表層の微地形

 現地での地形観察と作成した地形表層モデルより地すべり地形を微地形群に分類した.移動地塊のブロックは,地すべり地形の頭部(標高270m以上)にみられ,高さ1m程度の副次滑落崖によって分割されている.ブロック上に設置した移動杭は8月19日〜1月17日の152日間で計測したが変動を確認できなかった.

 地すべり地形上の木本は点在する程度だが,地すべり地形の周辺は森林が発達している.地すべり地形内は,倒木や傾いた樹木がまばらに分布する程度で,ほとんどの植生は草本であり,裸地も点在する.地すべり地形の上部からガリーが数本形成されており,土石流による小規模な沖積錘も見られた.過去の衛星画像や空中写真を比較すると,2014年までは地すべり地形内は樹木に覆われているが,2015年以降から地すべり地形内で大幅に樹木数が減少することを確認した.

6表層の時系列変化

 菊池(2002)によると,直立する幹が森林群落を形成する場合,少なくとも幹が成長する過程で幹が破壊されるような地表の撹乱はなかったとされる.調査地では,2014年まで地すべり地形は樹木に覆われていたことから,表層を破砕するほどの激しい流動は生じていなかったと考えられる.調査地は,樹木がなくなることで裸地化が進み,ガリーが発達することで土砂流出が増大している.今後,流動が継続されれば樹木はなくなり,ガリーが発達し,裸地化と土砂流出により地表面の凹凸がさらに増加すると考えられる.以上のことより,樹木の減少を示す地域は地すべりによる崩壊が進んでいる可能性がある.今後,空中写真および差分干渉SAR解析により評価していく必要がある.

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