日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P127
会議情報

発表要旨
小地域統計を利用した明治行政村単位での再集計の提案—和歌山県の国勢調査を事例に—
*小本 修司熊谷 美香水内 俊雄
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【研究の内容】

 本研究は,総務省統計局が政府統計の総合窓口(e-Stat)にてオープンデータとして提供している小地域(町丁・字等)単位の集計データを1950年時点の市町村単位に再集計する手法を和歌山県の国勢調査を事例に提案するものである.また具体的な統計処理について,RやGISなどのソフトウェアの使用例と共に紹介する.

【研究の意義】

〇統計処理上の意義−時系列比較を可能に

 現在e-Statでは,平成7年から平成27年までの小地域(町字・字等)単位の集計データが提供されている.この小地域統計は,これまでの自治体の合併により,市区町村単位の集計データでは地域の状況把握が困難な場合に一定の役割を果たしてきたと言える.

 しかし,実際に定量分析する際に問題点があるのも事実である.特に人口減少が著しい中山間地域においては,平成7年から平成27年までのデータを時系列比較するのは困難な場合が多い.

 この原因として挙げられるのが,対象の小地域に関して,①秘匿地域となる調査年がある,②合算先の地域が調査年によって異なる,③小地域の境界線が変更される場合がある,という3点である.

 こうした現状を踏まえて,冒頭で紹介した手法を用いれば,多くの場合,先に述べた3つの問題が回避できることがわかった.

 処理フローとしては,各調査年の小地域統計の地域コードと1950年の市町村との対応関係がわかる表を作成し,それに基づき再集計作業を行う.ただ,平成7年から平成27年の間にも市町村合併が起きており,その度に地域コードが変更となっていることや,小地域と言っても集計単位が大字・小字が統一されていないなどの個別に確認が必要な地域も少なくない.

〇地理学的な意義—明治行政村単位での集計

 寺床(2017)では,地理学においては,行政地域に代表されるような外部的必要から設けられている形式地域と地域における住民の生活や,地域的な共同生活などの地的内容を持つ実質地域の両者が一致していない場合が多いことが指摘されている.

 しかしながら,実質地域である「広域集落圏(地域振興の行事や,広域な地域営農などが実施され,その範囲の中心集落には,福祉や商業サービスの拠点が存在し,それがネットワーク的に供給される集落類型)」と形式地域に当たる明治行政村は,多くの場合一致すると述べている.

 そこで本研究では,小地域データを再集計する単位を明治行政村とする.具体的には,いわゆる昭和の大合併が始まる直前の1950年時点での市町村単位に設定した.詳細はソフトウェアの使用例も含めた事例と共に当日報告する.

 なお本研究は,平成 29 年度和歌山県データを利活用した公募型研究事業で採択された「小地域人口推計に基づく人口縮減地域での集落再編と賦活力ある地域拠点摘出」(代表 水内俊雄)に基づいた研究事業の一環として進めてきた.この事業の紹介は,水内(2017)を参照のこと.

【参考文献】

小西 純 2010. 現状把握のための小地域統計データの利用と共有--情報共有媒体としての地方公共団体統計ホームページ (地方統計の現状と課題). 日本統計研究所報 40:33-48.

寺床 幸雄 2017. 中山間地域における新しい集落類型の検討と地域支援への応用に関する地理学的研究. 平成28年度国土政策関係研究支援事業 研究成果報告書

水内 俊雄. 2017.「和歌山県データを利活用した公募型研究」に参画して. 日本地理学会発表要旨集 2018a(0), 159

著者関連情報
© 2020 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top