日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 108
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発表要旨
高等学校地理教育における教科科目と部活動の連携
*小林 岳人
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抄録

次期学習指導要領では地理は「地理総合」として必修科目となる。選択科目としては「地理探究」が位置づけられる。この中にはGIS・地図、防災・地域貢献、SDGs・国際理解、主題学習・アクティヴラーニングなど、先端科学に基づく地理的技能、社会からの要請、国際的視点、教育全般における課題などが含まれている。これらは、従来から地理教育にて、十分に研究、検討されている。しかし、この教科科目の授業時間内にすべてを十分に扱えるわけではない。授業という人数的・時間的・場所的な制約があり、そのため地理教育が持っている知恵のいくつかは、学習者に伝えにくくなってしまっていることも事実である。地理教育は「空間(環境)の認識」が重要な責務である。地理の学習はフィールドとの関係が不可欠であり、学習者をフィールドへ導くことが必要である。また、研究発表会や科学オリンピックなど、生徒による研究活動も重要な観点である。そこで教科外活動の部活動に注目する。放課後や週末、長期休業中といった時間的制約が少ないところでの活動を可能とする部活動はこれらの実現が可能である。ここでは、教科科目“地理”と連携する部活動“地理部”についての考察と実践を示す。

 高等学校における地理部は、Study 高校受験情報局のWeb サイト(http://www.studyh.jp/kanto/special/club/sports/ (2017年8月21日最終閲覧)から首都圏985 校のデータを集計すると26校が設置している。設置率2.6%は100種類の部活動中77 位である。稀有な部活動であるが発表者の勤務校の千葉県立千葉高等学校には伝統的に存在している。県立千葉高校の地理関係授業は、第1学年では地理Aが必修科目、第3学年では文系に地理Bと理系に地理特講(学校開設科目)が選択科目として開設されている。地理Aでは、研究活動へつながるミニ発表、地図読図の実用的学習でありフィールドワークの基礎となるオリエンテーリングの実施(Kobayashi 2019)、あらゆる地理学習に適用可能な地図とGISの活用(小林 2018)などを行っている。また、総合的な学習の時間で地理関係ゼミを開講しており、これらの地理関係授業が地理部への誘いとなっている(図1)。

 地理部では地理授業内に行っているオリエンテーリング、GIS、ミニ発表を発展し、研究活動・研究発表、部誌の作成、巡検、オリエンテーリング競技会への参加など外部の活動へ導く(表1)。生徒を地理部へ誘うに際して、他部活動との兼部なども考慮する。地図作成などでGIS を打ち出すことで理系的要素を示し、オリエンテーリングを活動に入れることで運動系の生徒に対してのアピールになる。これによって地理部は地理に関わる興味関心を広く受け入れ、文理横断文武両道の部活動として地理の魅力を惹くことを狙っている。

 文化祭で研究発表、部誌、オリエンテーリング体験会を開催している他、地域でオリエンテーリングイベントを開催している。初回は近隣の県立青葉の森公園にてノルウェーから来日したオリエンテーリング競技者40名を招いてのオリエンテーリング練習会、2回目以降(通算3回)は県南部富津市の上総湊港海浜公園での一般向けのオリエンテーリング競技会を開催した(図2)。前者は国際交流活動、後者は地域活動として捉えることができる。後者は、高齢化・過疎化などの課題を抱えている地域であることから、いわゆる町おこしとして地域貢献活動と位置づけられよう。新学習指導要領では「社会に開かれた教育課程」の実現が要請されている。社会の構造的変化を踏まえ,社会の中での学校教育の役割として教育課程を社会と結びついたものにすることが重要視されている。そこには「社会や地域への貢献」などが求められている。その土地にオリエンテーリング用の地図を作成することは、その土地に価値を見出すこととなる。その地図をオリエンテーリングイベントに活用することで、さらに価値をもたらす。地域でのイベント開催は地域創成活動となる。高校生が地域でオリエンテーリングイベントを開催することの地理教育的な意義は大きい。これは教育に求められている社会における課題解決への地理教育が示す一つの解答ともなる。

 必修科目としての意義の一つには他との連携がある。部活動「地理部」を必修科目「地理総合」と選択科目「地理探究」と有機的に結び付け連動させる地理学習の枠組みを作り、高等学校地理教育の目的の実現を目指す。本考察における地理Aを「地理総合」に、地理Bを「地理探究」として捉えることで、次期学習指導要領に際しての目途となる。また、このような部活動は、現状の部活動の課題である長時間、休日なし、指導者不足などへの対応となる。

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