主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2021年度日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2021/09/18 - 2021/09/20
福島における災害アーカイブズに求められることは次の4点である。1番目は前の災害の経験がどれほど生かされたかを検証可能にすることである。2番目は次の災害を軽減することである。3番目は海外も含め他地域に経験を伝える、あるいは海外の経験を受け取ることである。4番目は、失われたふるさとを広く記録・保全・保管し、地域の記憶を守り、歴史としての位置づけや記録をすることである。2番目の次の災害を軽減することについて。そもそも災害とは何かということに関して世界的に見ると、大きく2つの研究の流れがある。自然現象に引きつけて考えるブライアン、アレキサンダー、トービンアンドモンツ、K.スミスなどが1つの流れである。それから人間の反応、つまり精神的・肉体的トラウマや経済・政治に即して考えたダインなどの流れである。この2つの共通点として、災害とは社会の機能や日常性を失うことであり、復旧は日常性を取り戻すということだと定義付けされている。ただしこの場合の日常性とは、災害前の姿だけを指さない。3番目の知識の共有は、日本の災害経験等を海外に輸出することである。この場合、受け取った他国側としては、文化が違うために自国向けにカスタマイズする必要が生じる。4番目の失われたふるさとの記録については例えば、災害がきっかけとなり楢葉町の楢葉北小学校という戦前からある古い小学校の取り壊しが決まった。3代目の校長先生が明治21年1月着任で、卒業生も多く歴史があり、町民にとっても大変シンボリックな学校であった。この学校がなくなるため、福島大学が学校の内外の記録や、保存状態のよい教室を復元可能にするための測量、掲示物等の物品の収集を行った。楢葉北小学校に関しては、防災が目的というよりは、失われつつある地域アイデンティティのシンボルを残すための収集活動となったのではないかと考えている。
次に原子力災害被災地でのアーカイブズの特徴に関して述べる。まず災害の特徴として、放射線であるため目に見えない、広い範囲に影響する、ふるさとを失う、ということがある。この復興のさせ方について、行政は元あったものを壊して新しくつくるという傾向、地元の方は元の姿に戻してほしいと考える傾向がある。行政としては防災・減災を頭に置き、住民は、もちろん防災・減災は大事だが、失われつつあるふるさとを記録してほしいという期待がある、という差が生じる。このため、誰に向けて記録を残すか、何を記録するか、どのように記録するか、災害記録をどう活用するか、これら4点について、これから福島でアーカイブズを様々な機関や担当者がつくっていく中で、お互いに協力していくためには、できる限り共通認識を確立することが重要となる。