日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S206
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発表要旨
私立大学が「地理」を出題する意義
*戸井田 克己
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抄録

1.はじめに

 本報告では,私大入試で「地理」を受験科目に置くことの意義について考察する.具体的には,大学が公表するアドミッションポリシー(入学者受け入れ方針)との兼ね合いや,学習指導要領における高校地理の位置づけ,入試における科学的側面と教育的側面の問題等について検討する.

 報告者の勤務校では,入学試験で地理受験ができる学部が10学部(法,経済,経営,文芸,総合社会,国際,建築,農,産業理工,短大),できない学部が5学部(理工,薬,医,生物理工,工)ある(2021年度入試現在).文系7学部等においては,「地理歴史・公民・数学」の選択科目として「地理」を置いている.また,理系3学部においては,国語や理科などと組み合わせる形で「地理」を置いている.

2.大学のアドミッションポリシー

 平成28(2016)年3月,中教審によりガイドラインが公表され,大学に対して三つのポリシー(アドミッションポリシー,カリキュラムポリシー,ディプロマポリシー)の公表が求められた.以来,勤務校でも学部ごとに,これら3ポリシーを策定し,ホームページその他で公表してきた.

 このうち,アドミッションポリシーについては,実質上,志願者の資質・能力を判定する手立ては入試をおいてほかにない.これが勤務校が「地理」を含めた入試問題を自前で作成し,試験実施する根拠となっている.各学部のアドミッションポリシーを,二三例示する(下線は報告者).

経営学部 地理・歴史の観点から社会を理解する基礎的知識と社会の仕組みに対応していくための分析能力

総合社会学部 日本及び世界の情勢や地域特性についての総合的な理解

建築学部 変化する社会情勢に対応していくための歴史・風土・政治・経済に関する基礎的知識

3.学習指導要領における高校地理の位置づけ

 平成30(2018)年版高校学習指導要領(以下,新要領)で「地理総合」が必履修科目となった.これを以て,「50年ぶりの地理必修化」ということをしばしば耳にする。しかしこれは誤りである.学習指導要領の歴史において,高校地理が必修となるのは新要領が初である.一方で,地理歴史科の新設(平成元年版要領)以前は,地理は選択科目でありながら,普通科においては必修とほぼ同等の扱いであった.正確に言えば,「実質30年ぶりの地理必修化」となる.

 さて,学習指導要領における「選択」や「選択必修」では,その主体となるべきは生徒であって,学校が主体となっている現状(生徒が地理を履修したくてもできない状況)は学習指導要領の趣旨に反する.「地理歴史科」とは,地理と歴史が相互補完の関係をなす教科であり,高校は地理も歴史も選択可能なカリキュラムを組まなければならない.そして大学はそれを受け,受験機会を保証しなければならない.それはこれまでもそうであったのだが,新要領下では国公私立を問わず,そのことがいっそう強く求められる.

4.入試における科学的側面と教育的側面

 新要領の準備や告示と軌を一にして,2021年度入試より大学入学共通テスト(以下,新テスト)が開始された.そして,あたかも新要領の趣旨と呼応するかのように,思考力や技能を問う出題へのシフトがいっそう顕著である.

 しかし本来,勤務校のアドミッションポリシーも示すように,大学の学力とは,科学(=地理学的知識)としての側面と,教育(=地理教育的手法)としての側面とが融合し,昇華されるべきものといえる.とすれば,私大の地理入試はもとより,新テストや国公立大の二次試験においても,両者をともどもいかに保証するかが,国民の地理学力の実質的かつ形式的な陶冶において必要不可欠な条件となろう.

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