日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S202
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発表要旨
新しい地理教育に対して大学がすべきことは何か?
*矢野 桂司
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抄録

1.はじめに

第24期(2017年10月から2020年9月)日本学術会議地域研究委員会・地球惑星科学委員会合同地理教育分科会では、2022年4月からの高校地歴科における「地理総合」のスタートにあわせて、持続可能な社会づくりに貢献する地理的資質能力の育成の中心的役割を担う地理教育の重要性を広めるために、提言「「地理総合」で変わる新しい地理教育の充実に向けて—持続可能な社会づくりに貢献する地理的資質能力の育成—」を2020年8月25日に発出した。

そこでは、(1)「地理総合」による地理改革、(2)地理的な見方・考え方を問う大学入試のあり方、(3)「地理総合」を支えるための大学地理教育の変革、(4)小学校・中学校・高等学校間及び諸教科間の関連性、(5)「地理総合」を支えるための社会的環境整備の充実、と早急に取り組むべき5つの提言を行った。これらはいずれも、地理総合がはじまる2022年4月よりも前に行われなければならない。

例えば、新しい学習指導要領で教育を受けた生徒が大学受験を受ける2024年度大学入試科目の決定は2023年度中には公表される必要がある。また、大学での地理教育に関して、教養課程、さらには、文学部、理学部はもちろん、環境学、都市計画学、国際関係学などの学部での専門課程においても、地理総合や地理探究を履修した生徒を受け入れての教学内容の高度化を考えていく必要がある。

加えて、新しい地理総合や地理探究を教える地歴科の教員養成課程の内容も変えていく必要があるといえる。

2.教員養成大学へのアンケート調査の結果

提言の作成において、地理教育分科会では、高等学校教員(地理歴史)の教員免許状の交付を行う大学(全国786大学のうち、対象となる大学は235大学(国立大学61校、公立大学13校、私立大学161校))の、地理教育の現状と課題を明らかにするために、2019年10月に、日本地理学会の会員名簿を基礎として、大学に所属する地理学会会員(206名)にアンケートを実施し、135の大学・学部の状況の回答を得た。

(1) 調査項目 具体的には、1)学部学科(あるいはコースとして)の地理学関係の必履修科目、2)免許法施行規則の規定科目人文地理学、自然地理学、地誌の設置、必須科目と単位数、必要単位数、科目名称、3)教職科目(必修)において、「地理総合」に即した授業内容を意識して教授されているか、4)入試科目に地理があるか、5)教職科目において、「地理総合」に即した授業内容を展開する際の課題、などを問うた。

(2) 回答の概要 調査時点では、「教職科目(必修)において、「地理総合」に即した授業内容を意識して教授されているか?」という問いに対して未だ十分に対応ができていない。特に、「教職科目(必修)において、「地理総合」で柱となる、GIS、国際理解、防災、持続可能な社会づくりに関して教授されていますか?」という問いに対して、「取り入れている」と回答した大学・学部は多いが、「取り入れたい」とする回答も多く見られた。さらに、今後、多くの大学・学部において、教養科目や教育課程科目等において「地理総合」の内容を意識した授業が行われることが期待される。そのためには、地理学に関連する教養・教職科目の授業を担当するすべての大学教員が、「地理総合」の内容を理解し、大学において、その基礎をさらに発展させることを意識した授業が行われるべきである。

また、「教職科目において、「地理総合」に即した授業内容を展開する際に課題となることをお教えください。」という自由回答において、「教育現場の現状がわからない」、「地理学、自然地理学、GISの内容を教える教員がいない」という回答が多くみられた。

3.おわりに

 新しい地理総合と地理探究がスタートすれば、それらを履修した学生を入試選抜し、大学で教えていかなくてはならない。大学においても、地理総合の柱となった、地図やGISを活用した、国際理解や国際協力、防災、持続可能な社会づくり等の科目内容を充実させるべきであり、とりわけ、教員養成や教職大学院では、教科専門性を十分修得できるようにすることが重要である。

文献 日本学術会議地域研究委員会・地球惑星科学委員会合同地理教育分科会、提言「「地理総合」で変わる新しい地理教育の充実に向けて—持続可能な社会づくりに貢献する地理的資質能力の育成—」、2020年8月25日。

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