日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 308
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発表要旨
鎌倉のオーバーツーリズムに対する Irridex Modelの援用
住民意識の地区別差異
*文 迦
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抄録

Ⅰ 鎌倉におけるオーバーツーリズム問題

オーバーツーリズム問題が世界中で注目されている.鎌倉市におけるオーバーツーリズムも典型例で,鎌倉市は2019年4月に『鎌倉市公共の場所におけるマナーの向上に関する条例』を定めた.訪日アジア人観光者に人気のスポットでの写真撮影の自粛を要請するその内容は,日本国内だけではなく,中国のメディアでも大きく取り上げられた.

日本におけるオーバーツーリズムの研究は,用語定義と事例研究に終始し,理論化を目指す研究はあまりない.それゆえに対策の提案についての科学的な根拠が形成されていない.一方,欧米ではDoxey(1976)のIrridex ModelやButler(1975)の観光に対する地域住民の反応分類といった古典的モデルが現在も活用されている.

Ⅱ Irridex Modelの概要

Doxey(1976)は,バルバドスとナイアガラの事例においてホストとゲストの相互作用プロセスを考察し,イラダチ度モデル(Irridex Model)を提示した.このモデルでは,地域住民は観光に対してエーフォリア(Euphoria),アパシイ(Apathy)イラダチ(Irritation),敵意(Antagonism),最終レベル(Final level)という5つの意識の段階を踏んでいくとされている.これに対してButler (1975)は,観光に対する地域住民の反応が「熱烈な推進・支持」,「諦めの受容・支持」,「猛烈な反対」,「暗黙の反対」という4つのカテゴリに整理することを提唱している.Doxey(1976)とButler(1975)の理論は,オーバーツーリズムにおける地域住民の反応という点で援用が可能な古典的なモデルであり,それぞれの研究で援用されている.

Ⅲ 先行研究

Zhang(2018)は香港において「ファッションと美容」と「スーパーマーケットとコンビニ」に関連する商業の店主がよりイラダチを持っていることを明らかにし,Esmat (2017)はドバイにおいて住民の性別,年齢,教育背景などがイラダチに影響を与えることを実証した.また,Manuel et al (2013)はカボベルデにおいて観光業従事者や観光業に関わりがある住民が他の住民よりも,オーバーツーリズムに対して楽観的な考えを持っていることを明らかにした.

ただし,これらの欧米の研究では,住民の居住地区による違いがイラダチにどのように影響するのかが考察されていない.観光者は観光地内を流動するものであり,地区別に観光空間利用の濃淡が生じる.ゆえに,その影響を検討する必要性は高いといえる.

Ⅳ 研究方法と結果

本研究では上記の先行研究で扱われてきた指標を統合し,鎌倉市を事例として,住民の居住地区別にこのイラダチの程度を調査した.具体的には,観光地化された地区(小町通り商店街周辺),元々居住地であったが外国人観光客の到来により観光地された地区(鎌倉高校前駅周辺),観光地されていない地区(大船駅周辺)で,郵送式のアンケート調査を行った.本研究では、その結果から地区別のイラダチの差異を報告する.

文献

Butler, R.W. 1975. Tourism as an agent of social change. In Helleiner, F. ed. Tourism as a Factor in National and Regional Development, 85-90.

Doxey, G.V. 1976. When enough's enough : the natives are restless in Old Niagara. Heritage Canada 2: 26-27.

Esmat,Z. and Jason,F. K. 2017 Resident Attitudes Towards Tourists and Tourism Growth: A Case Study From the Middle East, Dubai in United Arab Emirates. European Journal of Sustainable Development 6(1):291-307.

Zhang,J.J., Wong,P.P.Y., WongP. and Lai,P.C. 2018. A geographic analysis of hosts' irritation levels towards mainland Chinese cross-border day-trippers. Tourism Management 68: 367-374.

Manuel,A.R., Patricia,O.V. and Joao,A.S. 2013. Residents’ Attitudes towards Tourism Development in Cape Verde Islands. Tourism Geographies 15(4): 654-679.

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