日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P009
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発表要旨
火山噴出物の再移動による埼玉県東部元荒川沿い沖積低地形成への影響
*村田 昌則高橋 尚志青木 かおり西澤 文勝小林 淳鈴木 毅彦
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抄録

Ⅰ. はじめに

 噴火直後に火口近傍やその周辺域に堆積した火山噴出物は、時間の経過とともに再移動し、下流域の地形形成に影響を及ぼす.それは時として災害の要因となる.埼玉県東部の沖積低地は、江戸時代初めの東遷事業以前は利根川の下流域であり、浅間天明噴火の際に発生した天明泥流は、江戸へも流れ下ったことが知られている(井上、2009).埼玉県環境科学国際センターによって公開されている「WEB GIS によるボーリング柱状図」によれば、地表面から深度5 m 以浅の堆積物中に軽石が挟在する箇所が多数確認できる.元荒川沿いの低地は、8 世紀初頭以降のある一時期の利根川流路と考えられ(小暮、2011)、沖積層上部の軽石は利根川により運搬された再堆積物の可能性が高い.我々はこれまでに蓮田市西新宿三丁目の黒浜西小とそこからおよそ10 km下流に位置するさいたま市岩槻区岩槻文化公園近傍の元荒川河食崖の2 地点においてボーリング調査と地質断面観察を実施した(鈴木ほか、2018;2019).本発表では、岩槻文化公園において掘削したボーリングコア(岩槻文化公園コア)中から確認された火山噴出物の分析結果と放射性炭素年代について報告し、関東地方北部の火山噴火に起因する火山噴出物の再移動による埼玉県東部の沖積低地の地形形成への影響を検討する.

Ⅱ. 岩槻文化公園コア

岩槻文化公園コア(掘削深度12 m)の掘削地点(標高およそ7 m)は、元荒川の自然堤防に位置し、国土地理院による土地条件図によると元荒川の高水敷に区分される.深度 0〜0.12 mは角礫混じり暗褐色土、深度 0.12〜1.65 mは塊状の粗粒から中粒砂、深度 1.65〜2.19 mは中粒から細粒砂混じりのシルト、深度 2.19〜12.0 mは塊状の粗粒から中粒砂によって構成される.深度 4.52〜4.59 m、4.61〜4.64 m、5.00〜5.12 mには円磨し発泡した火山礫(最大粒径10 mm)が濃集する.これらの火山礫の色調(灰色・白色・黒色)別組成(粒径上位の個数比)は、灰色:50〜57%、白色:21〜33%、黒色17〜22%である.これは、元荒川の10 km上流の自然堤防に位置する蓮田市黒浜西小で掘削されたコアの深度およそ3.5から4.4mに挟在する火山礫の色調組成と類似する.白色火山噴出物は、火山ガラスの化学組成から榛名伊香保テフラ(Hr-FP;6世紀中葉)とみなせる.灰色・黒色火山噴出物は、同様に浅間A テフラ(AD1783)およびB テフラ(AD1108)のトレンドにのることから浅間火山起源テフラであると推測できる.また、深度3.8 mの炭化材から得られた放射性炭素年代値はAD11〜12世紀を示し、火山噴出物の対比結果と整合的である.深度 2.1m、深度 5.4mの腐植土壌はそれよりもかなり古い年代値(7〜11 ka)を示し、コンタミネーションの可能性がある.

Ⅲ. 考察

岩槻文化公園の深度4から5 m以浅の堆積物は、蓮田市立黒浜西小の深度およそ4 m以浅と同様に、Hr-FP噴火時以降に急速に自然堤防が発達して形成されたと考えられ、元荒川沿いでは、Hr-FP噴火時以降自然堤防の成長や河道の埋積が急速に進んだといえる.これは噴火にともなう土砂供給量増加に起因する可能性が高く、埼玉県東部の沖積低地の形成には、利根川上流域からの火山噴出物の再移動が大きく影響していることが示唆される.今後さらに調査地点を追加し、火山噴出物の再移動による時間的・空間的影響を評価することを目指す.

【文献】 井上 2009.噴火の土砂洪水災害—天明の浅間焼けと鎌原土石なだれ.小暮 2011.地学雑誌 20:585-598.鈴木ほか 2018.日本第四紀学会講演要旨集 48:21.鈴木ほか 2019.日本地理学会発表要旨集 95:137.

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