日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P013
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発表要旨
位置情報データを基にした洪水警報発令時の水平・垂直避難行動の可視化
*宇根 寛長谷川 直子遠藤 宏之水関 裕人市川 将成
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抄録

令和元年台風19 号では、東京をはじめとする関東の各地に大量の降雨が長時間継続し、様々な被害をもたらした。多摩川流域においては、一部地域で多摩川本川・支川の氾濫や内水氾濫が発生した。また、東京東部の荒川や江戸川では、実際の氾濫は起こらなかったものの、荒川のさいたま市西区の観測所では観測史上最も高い13メートル8センチの水位を観測するなど、危険な状態に到達した。当時多摩川および荒川・江戸川地域では、大雨警報・大雨特別警報・洪水警報・暴風警報・避難勧告といった避難を促す様々な警報や指示が発令された。その際、実際にどのような人流の変化があったのか、多摩川および荒川・江戸川下流域を対象に、位置情報データを用いて人流を可視化し、避難状況について分析を試みた。特に、今回の分析では、これまであまり活用されてこなかった高さ方向の位置情報データも活用することで垂直避難の状況を把握することを試みた。

株式会社ブログウォッチャーではユーザーから許諾の取れたスマートフォン端末の位置情報データを保有しており、人流分析などの行動分析を行なっている。「位置情報データ」とは、スマートフォンから取得された端末識別ID・時刻・緯度・経度の時系列情報を指す。なお、位置情報データはユーザーから許諾を得たもののみを利用し、また、個人を特定するような使い方は行わず、集計値として利用している。保有する位置情報データは、約2,500万端末、取得レコード数月間250億、これまで蓄積されたデータは数兆レコード存在する。

多摩川流域については、世田谷区及び大田区を対象に分析を行った。両区においては、40戸が浸水し、17,000人が避難したと報告されている。対象地域には、タワーマンションをはじめとした高層住宅や、高層商業施設などが多く存在していることから、水平避難だけではなく、高所への垂直避難もあったことが想定される。このため、位置情報の3次元的データも用いて避難行動の分析を行った。本稿作成時においては分析中であり、大会時のポスターにおいて結果を報告する。

東京東部の荒川・江戸川流域には、標高0m以下の地域が広く分布しており、河川氾濫時には大規模な浸水被害が想定されている。台風19号での氾濫による浸水被害はなかったものの、観測史上最大水位を観測した地点もあるなど危険な状態であった。台風19号が接近、通過した2019年10月10日-13日の人流を地図にプロットして時系列ごとの人流を可視化した。河川の洪水予報については、12日11時氾濫注意情報>12日14時10分氾濫警戒情報>12日16時10分氾濫危険情報と時間を追っていくごとに警戒レベルが上がり、13日17時10分に警戒解除となっている。それに対して、人流については、12日は明らかに下がっているが、13日は氾濫警戒情報が発令中にも関わらず、11日に近い状態まで人流が上がっている時間帯があった。このことより、洪水予報等の発令と人流(人の避難行動)にはタイムラグがあることがわかる。洪水予報等の発令が必ずしも適切な避難行動につながっていない可能性があり、これらを結びつける方策が必要であることを示唆している。

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