日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 235
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発表要旨
児童相談所の管轄地域における児童虐待の地域的差異について
*遠藤 有悟坂本 次郎北條 大樹山本 直美髙岡 昂太
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抄録

はじめに

 日本の児童虐待相談件数は,1990年度の統計開始以降,増加の一途をたどり,2019年度には過去最大の193,780件となった。過去20年間で児童虐待対応件数が12倍になっているのに対し, 児童相談所における児童福祉司の配置人数は2倍しか増えていない。また,職員一人あたりのケース担当数は都市部で100件を超えていると言われている。諸外国の基準によれば,職員一人あたり20件以内でないと業務が回らないと指摘されており,日本における児童虐待に対応する環境は常に逼迫な状態で,児童虐待の地域特徴を踏まえた効率的な職員配置が功を奏する可能性がある。

 児童虐待の地域分布は,松井・谷村(1997)が発生率に差があるものの全国的に発生していることや都市部では14歳以下で高い発生率であること,郡部では家庭の経済不安定や精神疾患の問題を有する率が高く,地域特性に応じた対策の構築が必要であると明らかにしている。清水(2017)は,厚生労働省の「福祉行政報告例」を用いて都市部では,ネグレクトや心理的虐待が多く,人口比あたりの虐待相談対応件数,相談種別,相談経路に関しては地域差があることを明らかにしている。しかし,これらの研究で扱われているのは都市部・郡部や都道府県などの広域での区分である。都道府県や政令市ごとに設置されている児童相談所等において個別の地域特性を考慮した職員配置や業務体制を構築する上では,詳細な地域ごとの特徴を把握する必要がある。

本研究は,「福祉行政報告例」(都道府県・政令市)より空間スケールが小さい児童相談所の管轄地域(以降,管轄地域)や市区町村ごとの児童虐待の特徴や地域的差異を明らかにすることを目的としている。

研究方法と使用データ

本研究では,三重県の児童相談所で対応された児童虐待事例に関する情報のうち通告日が2014年4月から2019年3月(2014年度から2018年度)のデータ(7,903件)を使用した。本データでは,住所表記統一に関するデータクレンジングにおいて,個人を特定しない粒度の情報に整えた後,Google Maps PlatformのGeocoding APIでジオコーディングを行い,市町・管轄地域単位で空間結合を行った。その後,市町・管轄地域ごとに通告件数の分析や道路ネットワークデータを用いた児童相談所からの到達圏解析を行った。

分析結果

 分析の結果,通告件数が多いのは管轄地域内の総人口が最も多いA児童相談所であるが,15歳未満人口1000人当たりの通告件数は管轄地域内の総人口が最も少ないB児童相談所で高いことが明らかになった。虐待種別ごとの分析では,年度によって変化がみられるが身体的・性的虐待で減少傾向,心理的虐待・ネグレクトで増加傾向であることが明らかになり,児童虐待の地域的差異が確認された。

参考文献

松井一郎,谷村雅子(1997)わが国の小児虐待の地域分布. 平成9年度厚労省心身障害研究(効果的な親子のメンタルケアに関する研究),pp.10-15.

清水美紀(2017)【資料】児童虐待に関する地域間比較 ——『平成27年度 福祉行政報告例』データの分析——. 社会保障研究,2(2-3); 279-308.

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