主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2021年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2021/03/26 - 2021/03/28
サイクルツーリズムは第二次世界大戦後にヨーロッパから発展してきた。21世紀に入り,その健康増進や社会関係強化,環境保護への貢献が注目され,世界各地に普及した(Han et al.,2020)。近年,日本においてサイクルツーリズム推進地域が多く現れている。サイクルツーリズムは「自転車による一連の観光」「少なくとも2つ以上の市町村を対象とする自転車による観光」(兒玉ほか,2016)のように定義されているが,厳格な定義は存在しない。
サイクルツーリズムは新しい観光形態の一種と捉えることが可能であり,自転車を利用して観光地を巡るという参加・体験型の新たな手法によって,観光者の体験の質的向上や観光対象としての価値向上に役立つ。特定地域におけるサイクルツーリズム推進の具体的方法やサイクリストの行動空間に着目した研究は一定の蓄積があるものの,観光者の言動や評価に関する研究はまだ数少ない。
他方,観光行動は,事前のイメージ形成と情報収集から成立する活動であり,観光情報の整備と進展が観光者の動機と行動に大きく影響を与える。近年の訪日外国人観光者増加の背景には,インバウンド観光に対して行われている通信環境の整備などの取り組みの影響もあると考えられる。口コミによる波及効果はリピーターの増加にもつながる。しかし,訪日観光者の動機と関心点,行動範囲は彼らの居住国や地域によって大きく異なる。
さらに,観光目的地のイメージ形成およびイメージ情報に関する研究において,Gartner(1993)は目的地イメージの認知的,感情的,意欲的要素が観光行動の異なる段階に存在して関連しており,初期段階の認知的要素が観光の意思決定段階にある意欲的要素に与える影響は,中間の感情的要素の介在によって増強されると提唱している(Agapito et al.,2013)。一般的に,目的地イメージには少なくとも認知的(cognitive)と感情的(affective),意欲的(cognitive)要素が存在すると理解している。認知的要素は目的地に関する知識と理解,感情的要素は目的地に対する好悪など観光者の感情を指す。意欲的要素は観光者が認知的要素と感情的要素を把握したうえで,観光に行くか行かないかを判断する心理状態の行動意図を示す要素である。
そこで,本研究は,観光者の体験を重要視するサイクルツーリズムについて,瀬戸内しまなみ海道を事例として,観光者の評価を用いて目的地イメージの構成要素と関係を分析する。