日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 217
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発表要旨
森林資源の利活用と地域活性化に関する研究 -山形県鶴岡市を事例として-
*海邉 健二
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抄録

森林面積が国土の約7割を占める我が国において、木質バイオマス(WB)は全国各地で広く賦存し、多くの地域で利用可能な資源である。その一方でその資源を生産・供給する林業は経済的に厳しい状況が続いている。その結果、かつて林業を主産業としていた地域においては過疎化が進んだ。森林に目を向けると高度経済成長期前後に植林された人工林の多くが伐期を迎えているにもかわらず伐採が進まず、個々の樹木が大径木化している。また皆伐が行われた場合もその後、再び植林(再造林)される割合は面積比で3割程度に留まっているという報告もある(農林水産省 2020)。現状のままでは地域の雇用が更に先細り、またWBの持続的な生産と供給が将来的に困難になると危惧されている。そのような背景から林業の産業競争力を高め、森林資源の利活用の拡大やそれを通じた地域活性が期待されている。

林業の産業競争力を高めるには、生産されるWBの高付加価値化と生産コスト低減が必要である。ただ現状のWBの消費動向を考慮すると、かつてのように一定規模以上の高付加価値WBの需要が創出されることは難しいと考えられる。従って今後、生産コスト低減が不可欠であり、その方法は主に3つある;①要素技術の開発や技術改善・工夫等を通じた作業効率化等によるコスト低減、②林業に付随する活動から利益を創出、③政策的な制度導入による相対的な競争力強化。

筆者はこれまでWBの利活用の拡大に向けて、WBの生産コスト(浅田ほか2017)や発電コストのコスト構造(海邉ぼか2018)を明らかにした。その結果、①②の観点からの更なるWB生産コスト低減が必要であると認識した。

山形県鶴岡市及び近隣地域では、伝統的に皆伐後の林地において焼畑を行い、地場野菜のあつみかぶを栽培した後に再びスギ等を再造林している。本報告では、当該地域において焼畑及びあつみかぶの栽培と販売が森林資源の利活用と地域活性化に与える影響について、WB生産コスト低減の観点から分析した。

具体的には、山形県鶴岡市の森林組合及び役場等からヒアリング調査を含む現地調査を行い、WBの生産コストを作業プロセス毎にコストを積み上げて算出し、そこから焼畑がWBの生産コストや再造林に与えるコスト低減効果、及びあつみかぶの収益による影響を定量化した。焼畑によって再造林時の準備である地拵えや再造林後の雑草等を取り除く下刈り等の作業が軽減する。その結果、単位面積当たりでWB生産コストの4%程度の軽減効果があることが、またあつみかぶの栽培と販売による利益によって3%程度の効果があることを定量的に明らかにした。

参考文献

農林水産省 2020. 林政審議会(令和2年10月12日)資料6 再造林の推進

浅田龍造ほか 2017. 木質バイオマスの生産コスト構造とその低減策 日本森林学会誌 99:187-194

海邉健二ほか 2018. 木質バイオマスのエネルギー利用拡大に向けた技術評価 —コストモデルの構築と技術シナリオの策定— 日本エネルギー学会誌 97:284-29

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