日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P021
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発表要旨
高知県四万十川における穿入蛇行の特色と成因
DEMデータと空中写真判読による検討
*大神 勇人
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抄録

1. はじめに

 高知県南西部を流れる四万十川は、穿入蛇行地形を発達させている。河口より50~90kmの中流部において顕著な穿入蛇行が発達しているとされ、大塚(1927)、林・池田(2000)・松四ほか(2017)により四万十川中流部では掘削蛇行が発達し、隆起や砂礫堆、地質が掘削蛇行の形成に寄与しているとされた。

 しかし、四万十川では、中流部以外の上流部や下流部でも穿入蛇行地形が見られることから、それらの蛇行谷の特色を比較する必要がある。本研究では区間ごとの差異とその成因を明らかにすることを目的とする。

2. 調査対象地域

 本研究では、四万十川源流不入山東方から河口より約15kmの四万十市佐田付近までの、河口部の沖積平野を除いた四万十川本流全域を対象とする。

3.研究の手法

 空中写真判読による地形分類図の作成から、区間ごとの谷底平野の発達度合いや砂礫堆の有無を判別した。

 DEMを用いた縦断面図・横断面図の作成から河床勾配と谷の横断形状の検討を行った。谷の横断形状から掘削蛇行と生育蛇行のいずれが発達しているかを検討した。

 蛇行の屈曲度と地質図の対比を行い、各蛇行の特色と地質の関係を検討した。

4. 結果

 地形分類図の作成から、JR土讃線窪川付近のような比較的広い谷底平野を持つ区間と、JR予土線打井川駅付近のように、谷底平野がほとんど発達しない区間が明らかになった。また、上流から中流にかけ複数の地点で旧河谷や環流丘陵が見られた。

 横断面図の作成から、上流部は生育蛇行が発達し、掘削蛇行区間だと考えられていた中流部にも部分的に生育蛇行が見られた。

 地質図の検討から泥岩卓越部で生育蛇行が、砂岩卓越部で掘削蛇行が形成されることが明らかになった。

5. 考察

 松四ほか(2017)は四万十川中流部の砂岩層と泥岩層で岩盤強度に差が見られるとした。このことから、流域全体でも岩盤の受食性の差によって砂岩層と泥岩層の境界で蛇行形態に違いが表れたと考えられる。

 第四紀地殻変動研究グループ(1968)によると、谷底平野の発達する区間や下流部での第四紀における隆起量は250~500mであり、中流部の掘削蛇行区間では500~750mとされているため、隆起量の差が下刻の強さに影響し、蛇行形態を特徴づけていると考えられる。

6.おわりに

 調査結果から、四万十川の穿入蛇行は典型例とされる中流部以外にもほぼ全域で認められ、谷底平野の発達や生育蛇行・掘削蛇行区間と直線流路区間など、区間ごとに蛇行の特色が異なることが認められた。

 横断面形状や屈曲度と地質図の対比により、地質による蛇行形態の差異が示唆された。

 本研究では、地質や隆起量といった要因の影響度合いについては明確にならなかった。今後他の穿入蛇行河川との比較検討を通じて要因の影響度合いを明らかにすることが求められる。

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